2021年11社共同復刊25
[ごあいさつ]
2021 年、第25 回目の11 社共同復刊、今回も多数のリクエストをいただきありがとうございました。2 月28 日までの期間中に、紀伊國屋書店内公式サイト、復刊ドットコムの特設サイトおよびFAX で、受けつけたリクエストは総数約4,200 票、最多書籍には126 の票が寄せられました。いただいたコメントには、それぞれの書目に対しての皆さまからの熱心な要望が伝わっており、各発行出版社はこの結果を元に、復刊書目の選定をいたしました。今回の共同復刊で実現できなかった書目からも、各社独自の方法で復刊を予定している場合もあり、1 点でも多くの品切れ書の復刊の実現にむけて努力してまいりますので、今後の各社の復刊情報にご注目くださるようお願いいたします。
今回、各発行出版社の判断により復刊を決定した書目は43 点43 冊。書籍は5 月下旬より全国約200 の協力書店店頭にて展示されますので、足をお運び頂けましたら幸いです。
※2021年のブックフェアは終了いたしました。
今年も充実した復刊ラインナップができました。来年以降も、読者の皆様のご期待に添えるように活動を継続させて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
※内容についてのお問い合わせは発行出版社までお願いします。
参加出版社
■ 岩波書店
〒101-8002 千代田区一ツ橋2-5-5 TEL 03-5210-4113■ 紀伊國屋書店
〒153-8504 目黒区下目黒3-7-10 TEL 03-6910-0519■ 勁草書房
〒112-0005 文京区水道2-1-1 TEL 03-3814-6861■ 青土社
〒101-0064 千代田区神田猿楽町2-1-1 浅田ビル1F TEL 03-3294-7829■ 創元社
〒101-0051 千代田区神田神保町1-2 田辺ビル■ 東京大学出版会
〒153-0041 目黒区駒場4-5-29 TEL 03-6407-1069■ 白水社
〒101-0052 千代田区神田小川町3-24 TEL 03-3291-7811■ 法政大学出版局
〒102-0073 千代田区九段北3-2-3 TEL 03-5214-5540■ みすず書房
〒113-0033 文京区本郷2-20-7 TEL 03-3814-0131■ 未來社
〒156-0055 世田谷区船橋1-18-9 TEL 03-6432-6281■ 吉川弘文館
〒113-0033 文京区本郷7-2-8 TEL 03-3813-9151
⇒<書物復権2021> リーフレット 第2号(2021.4)(PDF)はこちら
伊達聖伸さん「書物復権によせて」
書物復権によせて
伊達聖伸
(だて・きよのぶ)1975 年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は宗教学、フランス語圏地域研究。『ライシテ、道徳、宗教学』(勁草書房)、『ライシテから読む現代フランス』(岩波新書)など多数。コロナ禍で変化を余儀なくされた研究生活が続き、出張ができない代わりに本を買いまくっている。家のスペースを気にしつつ、『中江兆民全集』に『ゾラ・セレクション』、ジャン・ジョレス『仏蘭西革命史』から『フェルナン・デュモン著作集』(仏語)まで、これを機に入手した。いずれもリーズナブルな価格の古本で、ネットで注文して研究費で購入できるというのは便利で恵まれたことではある。
昔はそうではなかった。気になる本は必ず買っておけと言われても、そのための費用がなかった。留学奨学金の額面設定はよくできていて、家賃と食費はカバーできても、書籍購入までは回らない。図書館で読めというのである。史料をデジカメに収めることも、論文のダウンロードも一般化していなかった。一時帰国の際に仕入れた煎茶を淹れたら、残った茶葉に胡麻と鰹節を散らし、醤油を垂らして一皿にしていた時代の私である。複写できる本のコピー代すら惜しく、フランス語で書く力もつくからと、気になる本の一節は、ファンの音が気になるノートパソコンへの打ち込みではなく、ルーズリーフに手書きで写した。19 世紀の文献はもちろん、宗教学の事典やライシテの論集、齧り読みの本からの抜き書きは長い修行時代の物的証拠となっている。
そうした時代の思い出の本を買って自分の本棚に並べることができるようになると、今度は研究に没頭できる時間が少なくなっていく。購入資金はあっても、品切れや絶版で手に入らないこともある。日本の専門書が市場から消えるスピードは、フランスよりも早いようだ。良書の復刊は実にありがたい。松宮秀治『芸術崇拝の思想』(白水社)は、近代芸術の宗教性を時代に埋め込み直して考えるよき伴侶だ。ダナ・ハラウェイ『猿と女とサイボーグ』(青土社)は、宗教と世俗の歴史のなかで人間概念の変貌を考察するのに有力な補助線となる。西洋キリスト教由来の「宗教」概念だけでは日本や東アジアは見えないと思って取り寄せた本のひとつが、溝口雄三『方法としての中国』(東京大学出版会)。私の手元に届いたのは、いずれも書物復権で甦った版のものだ。
自分史の文脈でも、出版市場の文脈でも、回帰する書物がある。そのネットワークのなかで、昔はよくわからなかった物事の理解が進み、次第に自分の立ち位置やそこから眺める世界の景色が見えてくることがある。たんに「探す」(chercher)のと「研究する」(rechercher)ことの違いは、後者の粘着的な反復性にある。「宗教」(religion)の語源は、「再び結びつける」を意味するラテン語≪ religare ≫ と「再読する、整理する」を意味する≪ relegere ≫ にあると言われる。一度交わった本と私の関係を結び直し(昔買えなかった本を買い)、その本を折りに触れて読み返すこと。私が従事する世俗の時代の宗教学も、この意味では宗教の基本に沿った営みであり、書物復権との相性もよいようだ。
読者からのメッセージ
■リストを見ていたら読みたくなる本がいっぱいありました。このリストを保存して参考にさせていただきます。書物復権の活動、応援しています。(64 歳・翻訳者)
■その分野において外せない基本書、名著の復刊を希望します。
■ここ最近、心理学、哲学や美に関する書籍をよく読んでおり、復刊が叶えば嬉しいと感じる書籍にチェックを入れさせていただきました。コロナ禍で今後の生き方について考えることも増え、先人の知識を効率良く吸収できる本は、益々価値が上がっていくことと思います。少しでも多くの本が復刊されることを願っております。(31 歳・会社員)
■気が付けばいつの間にか読めなくなっている入手の難しい書物は多くあります。ぜひ復刊を続けてください。(68 歳・会社員)
■学生時代、図書館で読んだ本をもう一度手に取りたくてリクエストしました。ぜひ、よろしくお願いします!
■いまある社会に疑問を持っているので、それを考えるための手がかりになるような本を探しています。今回リクエストしたものの多くはそういう動機に基づいています。(29 歳・書店員)
■新型コロナウイルスによって、経済活動が停滞し、文化活動が制約を受ける中、書物復権が今年も実施されるのは、ありがたいことです。(56 歳・公務員)
■年々、専門書が発行されてから手に入りにくくなるまでの期間が短くなっているように感じます。比較的高額ということもあり購入を先送りにしがちですが、あっという間に入手困難になってしまうのも残念です。今回のリストもほんの5 年前の刊行のものもあり驚きました。(43 歳・会社員)
■どうしても人文・思想的なものに関心が寄りがちな本企画ですが、歴史関係もコンスタントに復刊していただければ嬉しく存じます。(37 歳)
■若い頃は「本を読む」事に興味を持たず疎かにしてきました。だがこの年になり「本を読む」ことの大切さに改めて気づきました。しかし、時、既に遅く、その時代に読んでいれば良かったと思う書は絶版等になっていました。「無念!読むことが叶わず」と諦めていました。しかしこの「書物復権」という取り組みが、その諦めていた私の思いに、一筋の光を射してくれました。本当に有難いことであります。(55 歳・会社員)
■関心があるものの書店になく、古書価も高く購入できないものをリクエストしました。(26 歳・会社員)
■毎年楽しみな「書物復権」。ただ昨年は緊急事態宣言もあってか書店での展開が少なく残念でした。今年こそは書店で内容を確認し、レジへ持って行くのが普通にできるようになってほしいと思います。(53 歳・大学職員)
■ご参加の出版社さん以外の絶版本も実質的には手に入らないものが多いので、より多くの出版社さんを巻き込んだ企画になることを望んでおります。(23 歳・会社員)
■復刊事業の対象となる専門書については厳しい状況が続いていると思いますが、さすがに気軽に買える価格ではないので、自分の関心領域の本が復刊されたときに購入してきました。ただ、関心事項も5 年スパンくらいで変わってくるので、買いそびれているうちにまた品切れとなる、残念な思いも何度かしております。今回が25 回目ということですが、本事業の継続を切に願っております。(60 歳・団体職員)
⇒<書物復権2021> リーフレット 第1号(2021.1)(PDF)はこちら
宇野重規さん「階段上の狭くて広い空間」
階段上の狭くて広い空間
宇野重規
一昨年、在外研究で日本を留守にしているときに、我が家の改築問題が浮上した。妻が奮闘してくれたので、ほとんど任せきりだったのだが、設計図を見てふと思った。「僕の部屋はどこだろう?」。妻の答えは「ない」であった。二人の息子が大きくなったので、これを機にそれぞれに部屋を与えるという。
その方針自体はいいと思う。さらに妻は「いつも原稿は食卓で書いているじゃない」と追撃してくる。しかし、待ってほしい。筆者は一応研究者であり、人一倍本を抱えている。現在でもあふれている本をどうすればいいのか。これに対しても、妻はさらりと答えた。「この機会に整理すればいいじゃない」。
さすがにそれはないだろうということで、交渉の結果、二階への階段を上がったところに書斎を作ってもらうことにした。といっても、わずかな空間に本棚を設置したので、板机を除くとほとんどスペースがない。感覚的にはトイレ空間に等しいが、ドアもないので冬はまことに寒い。
にもかかわらず、この階段上の書斎、慣れてくるととても心が落ち着くことがわかってきた。置いてあるのは当然、厳選された、自分の好きな本ばかりである。そのような本のタイトルを見ているだけで、なんだか嬉しくなる。そういえば、政治思想家のハンナ・アーレントは、「自分を確認してくれるような物によって、世界が構成される」と言っている。その意味で、この書斎はまさに自分にとっての「世界」だ。
山のようにある文庫本もこの際に整理することにした。分類していると、いろいろ気づくことがある。例えば、これまで自分は大江健三郎の良い読者ではないと思っていたのだが、探してみると実にたくさんの本がある。やはり若い頃から、この作家の影響を受けてきたのだとしみじみ思った(調子に乗って、文芸誌に大江健三郎論まで書いてしまった)。
もちろん村上春樹の本も多いし、椎名誠の書くものが好きであることも再確認した。さらにいえば、橋本治についても、この才能ある著者の書くもののうち特定のジャンルに限られるとはいえ、かなりの本を持っている。いま自分が書いたり、話したりしていることは結構、この人の受け売りなのだと思った(再び調子に乗り、文芸誌に橋本治論を書いてしまった)。
ところで筆者の本業は政治学者である。文芸誌はともかく、政治学についての本はどこで書いているのかと聞かれるかもしれない。もちろん、この階段上の書斎である。いまどきの政治学者は大量のデータを駆使して論文を書くので、複数のパソコンやモニターを並べて、論文を書いている。筆者はこの狭い書斎で小さなノートパソコンと睨にらめっこしている。それでも、好きな本に囲まれたこの「世界」は、自分には広い空間だ。
コロナで家に閉じ込められていたこともあり、この書斎で『民主主義とは何か』(講談社現代新書)という本も書いた。この狭くて広い空間はますます居心地がいい。