フェア開催中!
5月下旬より「書物復権2025」復刊書目の刊行が始まりました。
全国約200の協力書店店頭、紀伊國屋書店では国内14店舗で復刊した書籍を展示中です。 ▶開催書店 (PDF)※フェアを実施していない店舗でもご注文/お取り寄せできます。
▼店舗とウェブストアの在庫はこちら紀伊國屋書店 書物復権2025フェア実施店
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2025年9社共同復刊29
[ごあいさつ]
2025年、第29回目の9社共同復刊、今回も多数のリクエストをいただきありがとうございました。2月28日までの期間中に、紀伊國屋書店内公式サイト、復刊ドットコムの特設サイトおよびFAXで、受けつけたリクエストは総数約8,723票、最多書籍には209の票が寄せられました。いただいたコメントには、それぞれの書目に対しての皆さまからの熱心な要望が伝わっており、各発行出版社はこの結果を元に、復刊書目の選定をいたしました。今回の共同復刊で実現できなかった書目からも、各社独自の方法で復刊を予定している場合もあり、1点でも多くの品切れ書の復刊の実現にむけて努力してまいりますので、今後の各社の復刊情報にご注目くださるようお願いいたします。
今回、各発行出版社の判断により復刊を決定した書目は37点38冊。書籍は5月下旬より全国約200の協力書店店頭にて展示されますので、足をお運び頂けましたら幸いです。
今年も充実した復刊ラインナップができました。来年以降も、読者の皆様のご期待に添えるように活動を継続させて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
※内容についてのお問い合わせは発行出版社までお願いします。
参加出版社
■ 岩波書店
〒101-8002 東京都千代田区一ツ橋 2-5-5 TEL 03-5210-4113■ 紀伊國屋書店
〒153-8504 東京都目黒区下目黒 3-7-10 TEL 03-6910-0519■ 勁草書房
〒112-0005 東京都文京区水道 2-1-1 TEL 03-3814-6861■ 創元社
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-2 田辺ビル TEL 06-6231-9010■ 東京大学出版会
〒153-0041 東京都目黒区駒場 4-5-29 TEL 03-6407-1069■ 白水社
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町 3-24 TEL 03-3291-7811■ 法政大学出版局
〒102-0073 東京都千代田区九段北 3-2-3 TEL 03-5214-5540■ みすず書房
〒113-0033 東京都文京区本郷 2-20-7 TEL 03-3814-0131■ 吉川弘文館
〒113-0033 東京都文京区本郷7-2-8 TEL 03-3813-9151
⇒書物復権2025 リーフレット 第2号(2025.4)(PDF)はこちら
小川公代さん「書物復権によせて」
書物復権によせて
小川公代(おがわ・きみよ) 1972年生まれ。 ケンブリッジ大学政治社会学部卒、 グラスゴー大学文学部博士課程修了 (Ph.D)。現在、上智大学外国語学部英語学科教授。専門は、ロマン主義文学および医学史。主な著書に『ゴシックと身体』 (松柏社)、『世界文学をケアで読み解く』(朝日新聞出版)、『ケアの倫理とエンパワメント』 (講談社)、訳書にゴードン 『メアリ・シェリー』(白水社) 他。ハン・ガンがアジア女性初のノーベル文学賞を受賞したが、私は済州島四・三事件をモチーフとした『別れを告げない』(白水社)を読み終わって、これがハン・ガンによる文学の最高到達点なのかとじんわり胸が熱くなった。主人公の女性キョンハが友人のインソンと彼女の母親の記憶に寄り添いながら朝鮮半島の現代史上最大のトラウマというべき物語が語られている。
そのとき、ふとアメリカのSF作家アーシュラ・ル=グウィンの言葉を思い出した。ブリンマー・カレッジでのスピーチのなかで彼女はこう語っている。
私たちは火山なのです。私たち女性がみずからの経験を真実として差し出すとき、あらゆる地図が変わります。新しい山がいくつも生まれるのです。それこそ私が求めるものです。
私にとっては「書物復権」という実践は、長いこと忘れられていた山が再発見され、地図に明記される工程に似ている。なぜなら、絶版という現象は、確固として存在していたはずの書物(=声)が、いつの間にか印刷されなくなり、ル=グウィンのいう忘却された山を連想するからである。彼女は「まだ目覚めていないセント・ヘレンズ山よ、あなたの声を聞きたいのです」と呼びかけた。
奇しくも、『別れを告げない』の舞台となった済州島には韓国最高峰の火山ハルラサンがある。これまでも数々の忘れられた山々が再発見され、文学史上の地図が書き換えられてきた。2023年にはシモーヌ・ド・ボーヴォワール『決定版 第二の性』(河出書房新社)が復刊された。また、長いこと絶版になっていたアドリエンヌ・リッチの『女から生まれる』も来月復刊される予定である。ところが女性の手による書物で、復刊が望まれているものはまだ数多くある。個人的にはメアリ・シェリーの作品で復刊していいものも何冊かある。
火山繫がりでいうと、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』が誕生した背景には、1815年のタンボラ山噴火によって引き起こされた翌年の異常気象がある。大量の火山灰が大気中に放出されたことによりヨーロッパで雨が絶え間なく降り続き、屋内にいたメアリ、パーシー・シェリーやバイロン卿たちが怪談を書くことになった。活発な火山活動は、家父長制によって押さえつけられてきた女性たちの伸びやかな生命力や創造力のメタファーでもあり、それがシェリーやハン・ガンたちの書物を生んできたと思うと感慨深い。
読者からのメッセージ
■読まれるべき本が絶版で目に触れられず手に取られないのはとても勿体ないことで、このような復刊の試みは大切な取り組みだと思っています。(26歳・大学院生)
■毎年楽しみにしています。自分が探していた本以外にも、これは読んでみたいと思う本の発見につながってうれしいです。(55歳・会社員)
■たいへん面白い企画だと感じました。私にとって、書籍は新たな世界を開いてくれるものであり、書店はそんな新たな世界との偶然の出会いを楽しむ場だと考えています。(23歳・学生)
■ぜひ参加出版社を増やして欲しい。(66歳)
■毎年この時期を楽しみにしております。自分が興味を持つ前に絶版となってしまった貴重な本を、再び新刊として読むことのできる喜びや期待感を大切にして、毎回投票しています。(28歳・会社員)
■出版不況が長引くなか、読みたい本はいつも手元に置いておきたい(いつ手に入らなくなってしまうかわからない)という切実な思いが高まっている。(35歳・会社員)
■リクエストについて、この企画に参加していない出版社に対しても意向をまとめて伝えていただけるような仕組みがあればありがたいです。(41歳・公務員)
■電子書籍復刊の企画も実施してもらいたい。(45歳・団体職員)
■『ホロコースト全史』は今関心を持って調べている分野であると同時に、すべての人が忘れてはならない出来事なので、この機会にぜひ復刊してほしいです。
■『新エロイーズ』は現代の恋愛小説の起源とされながらながらく手に入りづらく、読めなかったため。(37歳・デザイナー)
■過去に出版された本を入手・閲覧できる機会が年々少なくなっている。今回の〈書物復権〉を機に、リストに掲載された図書が書店や図書館などで多くの人たちに手を取られるチャンスを得て欲しい。(30歳・会社員)
■書物復権によって知ったり、読んだりした書籍がたくさんあります。内容を見て気になるものや今の情勢に対して読まれる必要があるのではないかと思う書籍を選びました。(25歳・大学職員)
⇒書物復権2025 リーフレット 第1号(2025.1)(PDF)はこちら
林 大地さん「書物復権によせて」
書物復権によせて
林 大地(はやし・だいち)1997 年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学商学部卒業。2020 年より京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程、現在は同研究科博士課程二年。専攻は20 世紀ドイツ思想史。趣味は古本屋めぐり。著書『世界への信頼と希望、そして愛──アーレント『活動的生』から考える』(みすず書房、2023)。京都大学生協発行の書評誌『綴葉』の元編集長。現在も同誌の編集委員として、毎月書評活動を行なっている。昨日、本棚から一冊の本を取り出した。リルケの『芸術と人生』(白水社)である。芸術や人生をめぐってリルケが語った言葉を、主に書簡から拾い集めてまとめた美しい一冊。たしか〈書物復権2022〉で復刊されたものだったように思う。ぱらぱらとページをめくっていると、次の一節に目が留まった。妻のクララ・リルケに宛てた手紙の中の一節だ。「芸術家はまるで難船した者のように、それらの事も物のをあとに残そうとして、岸に向かって投げつけているのではないでしょうか?」
ここには、詩人のマンデリシュタームやツェランが語った「投壜通信」のイメージが反響している。今にも沈没しようとする船から、誰かに届くことを祈って、壜に詰めた手紙を投げ放つ。誰かに届く保証は一切ない。どこにたどり着くかもわからない。しかし、船乗りに残された行為はそれしかない。彼の存在を証してくれるのは、小さな壜の中に折りたたまれた手紙、その一枚だけだ。芸術家もそのようにして、完全に海に沈み込むその前に、自身の作品を死を超えてこの世界に残そうとする──リルケはそう言いたいのだろうか。
ともあれ、この投壜通信の比喩は、私とリルケの関係性にも当てはまるように感じられた。クララに宛てたこの手紙が書かれたのは一九二四年。今からちょうど百年前。百年の歳月を経て、リルケが放った投壜通信は私という岸辺にたどり着いた。しかもこの本は一度水底に沈んだもの、すなわち品切れになったものだ。それが再び〈書物復権〉を通じて水面へと浮上した。それゆえそこには二重の偶然的な出会いがある。〈書物復権〉はさながら、砂を被った海底の沈殿物を再び海面へと引き上げる魔術的な糸のようである。
しかし私は同時に、拾われた投壜通信の背後には、拾われずにいる投壜通信が無数にあることを忘れたくない。いまだ漂流を続けるもの、水底の暗がりに沈んだままのもの、あるいは漂流の中途で粉々に砕け散ったもの。いまだ復権が叶わぬ失権したままの書物は数限りない。復権の無条件の祝福は失権の忘却を生みかねない以上、私は毎年の復権を祝福しつつ、それら失権したままの書物の存在も記憶に留めておきたい。その存在に気づいて初めて、私たちは、あの魔術的な糸を自分で垂らすことができるようになるだろう。
失権したままの無数の書物、その存在を開示するものとしての〈書物復権〉──それもまた、この祝祭の大事な意義のひとつではないかと思う。