紀伊國屋じんぶん大賞2012
(2012年出版の人文書/第3回)
紀伊國屋じんぶん大賞2012 大賞
『哲学の起源』
柄谷行人さん 受賞コメント『哲学の起源』が読者によって大賞に選ばれたと聞いて、大変うれしく思います。
私は本書を、2011年、原発震災のあとに始まったデモに行く傍ら、毎月雑誌に書き続けました。たまたまそのような巡り合わせになっただけですが、後から思うと、そのことには一つの必然がありました。ソクラテスはダイモン(精霊)に「民会」(議会)には行くな、しかし、戦えといわれた。それで彼は「広場」に出かけたのです。そこで静かな問答をしたのではありません。彼自身は穏やかに話したが、しばしば怒った相手に殴り蹴られた。しまいには、市民が参加する法廷において死刑の宣告を受けた。
私は本書で論じたのは、いわゆる「ソクラテス以前の哲学」ですが、それは通常、ソクラテスとはまるで異質なものと見なされます。しかし、私はソクラテスを「ソクラテス以前の哲学」を受け継ぐ者として見ました。彼は意識的にそうしたのではない。ダイモンの命令によって、つまり、無意識にそうしたのです。私は本書を書きながら、デモに行った。むろん、ダイモンの声を聞いたからではなく、やむにやまれずそうしただけです。しかし、そのとき、「ソクラテス以前の哲学」、すなわち「哲学の起源」が回帰してきたのではあるまいか。今、私はそう思います。
今日、哲学はたんに、知識を厳密に基礎づける仕事だと考えられています。しかし、その「起源」において、哲学はむしろ真の生を開示するものであった。哲学がそのようなものであるなら、またそうである限りにおいて、私は自ら哲学者でありたい、と考えています。
柄谷行人(からたに・こうじん)
1941年生まれ。哲学者。主な著作に、『マルクス その可能性の中心』『探究Ⅰ・Ⅱ』『定本 柄谷行人集(全五巻)』 『世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて』『世界史の構造』『Origins of Modern Japanese Literature』『Transcritique: On Kant and Marx』などがある。*プロフィールは当時のものです。
紀伊國屋じんぶん大賞2012
(2012年出版の人文書/第3回)
*「紀伊國屋じんぶん大賞2012」は2012年に刊行された人文書を対象とし、2012年12月1日~2013年1月6日の期間に読者の皆さまからアンケートを募りました。
*当企画における「人文書」とは、「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
*推薦コメントの執筆者名は、「さん」で統一させていただきました。

