紀伊國屋じんぶん大賞2016
(2014年12月~2015年11月出版の人文書/第6回)
紀伊國屋じんぶん大賞2016 大賞
『断片的なものの社会学』
岸政彦さん 受賞コメントこのたびは過分な賞をいただき、ありがとうございます。これまで、アカデミズムの中心からは遠く離れた大阪の路地裏で地味に生きてきましたが、とつぜんこのような大きな評価をいただき、戸惑い混乱するばかりです。
どんな本でもそうだと思いますが、この本もさまざまな偶然なしには存在しえませんでした。特に、ほとんど無名だった私に、「何でもいいから何か書いてください」と無茶なことを言ってきた朝日出版社第2編集部の大槻美和さんには、心から感謝したいと思います。彼女の熱意がなければ、この本は書かれることがなかったでしょう。
この本の最大の特徴は、何の勉強にもならない、ということだと思います。いちおう社会学というタイトルはついていますが、これを読んでも社会学や哲学や現代思想についての知識が増えることはありません。これは何の役にも立たない本なのです。
しかし、驚くべきことに、たくさんの方がこの本を読んで、おもしろいと言ってくださいました。この本は、私がこれまでしてきた聞き取り調査や、あるいは普通の日常生活のなかで出会ったいろいろな「物語」を並べて、そこからいろいろ考えたという、ただそれだけの本です。それなのに、こんなに評価されました。
それは、私たちの「存在の仕方」に関係するからなのかもしれません。私たちは、わけもわからないままにこの世界に産み落とされ、裸のままで放り出され、自分で生きていけと追い払われます。私たちがこの世界に存在することに意味はありません。私たちは路上に転がる無数の小石とまったく同じなのです。しかし、そこから私たちは、なんとかしてこのひどい世界で生き延びようと、必死で「意味」を作っていきます。
この本で書いたことは、まずひとつは、私たちは無意味な断片的な存在である、ということと、もうひとつは、そうした無意味で断片的な私たちが必死で生きようとするときに、「意味」が生まれるのだということです。この本で登場するすべてのもの──小石から全裸のおじいさんまで──が、私たちと共有しているものがあるとすれば、この「存在の仕方」なのだと思います。
これからも、機会があれば、こうしたことについて書いていきたいと思います。またいつかどこかで、お手に取ってくだされば幸いです。
このたびはほんとうにありがとうございました。
岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者。大阪市立大学大学院文学研究科単位取得退学。博士(文学)。龍谷大学社会学部教員。研究テーマは沖縄、被差別部落、生活史。著書に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)など。*プロフィールは当時のものです。
紀伊國屋じんぶん大賞2016
(2014年12月~2015年11月出版の人文書/第6回)
*「紀伊國屋じんぶん大賞2016」は2014年12月~2015年11月に刊行された人文書を対象とし、2015年11月2日~12月6日の期間に読者の皆さまからアンケートを募りました。
*当企画における「人文書」とは、「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
*推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は(選)、紀伊國屋書店一般スタッフ(当時)は(紀)を併記しています。

