紀伊國屋じんぶん大賞2018
(2016年12月~2017年11月出版の人文書/第8回)
紀伊國屋じんぶん大賞2018 大賞
『中動態の世界 意志と責任の考古学』
國分功一郎さん 受賞の言葉この本を出版して以来、多くの方々から感想をいただき、また多くの方々と対話を重ねてきました。著書を世に問うことは終着点ではなくて出発点なのだとの思いを強くしています。というのも、出版後も自分の考えは更に前に進んでいるからです。
この本では意志についてはそれなりの頁を割いて論じていますが、責任についてはあまり多くを語っていません。ですが、この本を出版し、多くの方からお考えを聞かせていただくことで、責任の概念を考え直すヒントをたくさん得ることができました。
この本では意志と一体となった責任の概念を論じています。しかしそのような責任は責任の堕落した姿ではないでしょうか? なぜ責任を英語でresponsibilityと言うのか? なぜ責任が応答responseと切り離せないのか? 責任が応答と切り離せないとすれば、それは自分の目の前で起こったことや自分が知ったことへの応答としてあることになります。
たとえば強盗に襲われた旅人が身ぐるみを剥がされ、半殺しにされたまま地面に横たわっている。誰もその人を助けようとしない。けれども、通りかかったある人物がその人を気の毒に思い、介抱し、宿に連れて行って、宿代まで代わりに支払う。その人はこの旅人を前にして何か応答しなければならないものを感じたからそうしたのでしょう。義の心と言ってもよいのかもしれません。ここには責任の原初形態とでも呼ぶべきものがあります。
それに対し、意志と一体になった責任とは、応答すべき立場にあるにもかかわらず応答しない人に対して、意志という概念装置を使って強制的に応答させる、そのような責任のことです。それは責任の原初形態からはほど遠い、その堕落した姿なのです。ですが私たちは責任というと、まずそのような責任の姿を思い浮かべます。ですから『中動態の世界』もそれを扱いました。しかし責任はそのようなあり方にとどまるものではありません。
「受賞の言葉」だというのに論文のようなことを書いてしまいました。しかしもはや私は、この本を書いていた頃の思い出や、この本に込めた想いを語れる状態にはありません。多くの方々から感想をいただき、また多くの方々と対話を重ねてきました。この本が出発点となって、私の内でも私の外でも多くのことが前に進んでいます。そのことをここに報告したいと思います。そして、そのように報告できるのは多くの方々がこの本を読んでくださったからであり、この本が紀伊國屋じんぶん大賞を受賞できたのもそれ故のことだと思います。こんなことはまず滅多に起こらないことです。本当にありがとうございます。
國分功一郎(こくぶん・こういちろう)
1974年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。高崎経済大学准教授。専攻は哲学。主な著書に、『スピノザの方法』みすず書房、『暇と退屈の倫理学 増補新版』太田出版、『ドゥルーズの哲学原理』岩波現代全書、『来るべき民主主義』幻冬舎新書、『近代政治哲学』ちくま新書、『民主主義を直感するために』晶文社など。本書『中動態の世界』医学書院で、第16回小林秀雄賞受賞。*プロフィールは当時のものです。
紀伊國屋じんぶん大賞2018
(2016年12月~2017年11月出版の人文書/第8回)
*「紀伊國屋じんぶん大賞2018」は2016年12月~2017年11月(店頭発売日基準)に刊行された人文書を対象とし、2017年11月1日~11月30日の期間に読者の皆さまからアンケートを募りました。
*当企画における「人文書」とは、「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
*推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は(選)、紀伊國屋書店一般スタッフは所属部署(当時)を併記しています。

