紀伊國屋じんぶん大賞2019
(2017年12月~2018年11月出版の人文書/第9回)
紀伊國屋じんぶん大賞2019 大賞
『誰のために法は生まれた』
木庭顕さん 受賞の言葉古典があり、これをみずみずしい感覚で受け取った中高生があり、両者をぶつけるという無謀とも思われた企画を思いついた編集者がいた。本書はこれに尽きるのであり、私の寄与はゼロに近い。内容上の功績は古典と中高生に属するから、本書が一定程度支持されたとすれば、それは古典と中高生が支持されたということである。読者は、中高生の反応を「眩しい」(出版社経由で知った一読者の表現、以下同じ)と感じたはずであるし、また、授業で取り上げた映画のDVDから「ギリシャ悲劇集」「ローマ喜劇集」に至るまでを買いに走ったはずである。
私は、特にこの中高生たちに一定程度の支持が集まったことの意義を過小評価するつもりはない。思いがけない「真っ暗闇の中の一筋の光」である。ただし、私はこの点に関する限りは確信していた。その日の午前中に初めて見た映画の細部を午後に授業において完全に覚えており、そして鋭い衝撃をピンポイントで受け取っていた。大学生にさえ見られないことである。まして、下手な知識で固めた大人には肝心の問題が伝わらない。もっとも、「切実過ぎて笑えなかった」とか、著者の「深い絶望」が読み取れたという(間違いなく大人の)感想もあった。しかしこれらの感想が的確に意識しているように、中高生がみずみずしければみずみずしいほど、われわれの(知的)状況が深い闇に包まれて出口が見えないということを思い知らされる。むしろ、真に私を驚かせたのはこのことを感じ取る大人の読者の存在であったと言ってもよい。おそらく彼らは、私と同じように、自分達が極端に反時代的であり四面楚歌であることを自覚している。その絶望のインテンシティーが、全く意外で唐突なランキングになって現れてしまったのであろう。
本書の授業に参加した桐蔭学園中学校・高等学校・中等教育学校のみなさんと木庭顕(こば・あきら)
1951年、東京に生まれる。1974年、東京大学法学部卒業。東京大学名誉教授。専門はローマ法。著書に、三部作『政治の成立』(1997年)『デモクラシーの古典的基礎』(2003年)『法存立の歴史的基盤』(2009年、日本学士院賞受賞、以上東京大学出版会)、『ローマ法案内―現代の法律家のために』(羽鳥書店、2010年/新版、勁草書房、2017年)、『現代日本法へのカタバシス』(羽鳥書店、2011年/新版、みすず書房、2018年)、『[笑うケースメソッド]現代日本民法の基礎を問う』(2015年)『[笑うケースメソッドII]現代日本公法の基礎を問う』(2017年、以上勁草書房)、『法学再入門 秘密の扉 民事法篇』(有斐閣、2016年)、『憲法9条へのカタバシス』(みすず書房、2018年)ほか。*プロフィールは当時のものです。
紀伊國屋じんぶん大賞2019
(2017年12月~2018年11月出版の人文書/第9回)
*「紀伊國屋じんぶん大賞2019」は2017年12月~2018年11月(店頭発売日基準)に刊行された人文書を対象とし、2018年11月1日~11月30日の期間に読者の皆さまからアンケートを募りました。
*当企画における「人文書」とは、「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
*推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は(選)、紀伊國屋書店一般スタッフは所属部署(当時)を併記しています。

