キノベス!キッズ2026
(2024年12月~2025年11月出版の児童書・絵本/第5回)
キノベス!キッズ2026 第1位『ある星の汽車』
森洋子さん特別寄稿キノベス!キッズ2026の第1位に、『ある星の汽車』をお選びいただき、たいへん光栄です。
この本の最初のアイデアは、絶滅動物ではなく、「それぞれの事情」を抱えた人々が汽車に乗り合わせるというものでした。
例えば、失恋のラブレターをムシャムシャ食べ続ける羊のお姉さん、考え過ぎで角が捻れる書生風の鹿の青年……。私はこれまでも動物を描いてきましたが、人物の心情を動物の特徴になぞらえて描くと、本質を突けるような気がします。そのような事情を持つ人物、というか動物を描いていたのですが、構想途中で「それぞれの事情」に「絶滅」という深刻な事情が結びつき、汽車は地球の時空を走ることになりました。
汽車の乗客はそれぞれの人生に喜怒哀楽を感じながらも、同じ旅人として一体感に包まれています。ここでは車内のあたたかい関わりを描こうと思いました。乗客たちはたわいもないおしゃべりを交わし、汽車にいつまでも乗っていられることを誰も疑いません。
けれども、次々と乗客は降りていき、さっきまでそこにいた隣人の席が空席になっていきます。思い出すのは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の一場面です。「『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。』ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。」読むたびに、取り返しのつかない底なしの虚無が迫ってきます。
私はこの絵本で、二度と戻ってこないこの星の隣人たちの「絶望的な不在」が表現できればと思いました。
けれども最後に、希望の流れ星を描きました。1949年に一度絶滅宣言された後に約10羽が再発見され、数十年の人間の努力によって、再び回復しつつあるアホウドリのことです。
この絵本の制作は、人も動物も誰もが、この星でその人生を精一杯生きる存在であることに、あらためて私自身が気づく作業でもありました。森洋子(もり・ようこ)
1959年、東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業。同大学院修了。絵本に『まよなかの ゆきだるま』『おるすばん』『さがしもの』『おまつり』『あめのひの ぼうけん』『げたばこマンション』『かえりみち』『ぼくらのひみつけんきゅうじょ』『月の見ていたこと』など。風刺画の『人間カルテ』がある。2024 年、『さがしもの』(『TEDDY'S MIDNIGHT ADVENTURE 』)でイギリスの絵本賞Queen's Knickers賞Runner-up(銀賞)を受賞。2025年、Kバレエ・オプト『踊る。遠野物語』宣伝紙芝居の画を担当。*プロフィールは当時のものです。
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