2012年と2016年に、白水社・みすず書房・東京大学出版会が企画し、大好評を博したブックフェア「レビュー合戦」。そのフェアが4年ぶりに復活します!
11のテーマに沿った本をピックアップ。そして、それらの本について、編集者を中心とした3社の担当者が熱く論じています。
店頭では、レビューを掲載した小冊子も配布中。ぜひフェア開催店にいらしてください。
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★フェア開催期間は店舗により異なりますので、詳細は各店舗へお問い合わせください。
レビューの一部をご紹介します。
Theme 1 他者とともに生きる
ウィリアム・マッカスキル『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房)
私たちはいま「効果的」という言葉にとても敏感だ。この予防法は、この支援活動は、この政策はほんとうに効果的なのか、という疑いをたえず抱えながら、世界各国の対応から身近な行政の一挙手一投足にまで、鋭い視線をむけている。私たち一人一人が、くまなく支援を受ける立場であるという、希有な時間を過ごしているからだ。
効果的な利他主義とは、確かな証拠や論理に基づいて慈善活動をおこなう運動であるという。慈善活動というと個人の心情と結びつけられがちだが、この運動は、入手しうるかぎりのデータを吟味・活用し、経済学などの専門的知見をとりいれながら、「どうすればできるかぎりよいことができるのか?」という疑問をひたすら科学的に追求していくことを特徴とする。本書は、過去になされた慈善活動の検証にはじまり、支援先の選び方、個人の消費の及ぼす影響やキャリア選択等において、行為の社会的影響を最大化するための考え方や実践法を指南する。マニュアルの体裁による明快さで、世界を改善していく具体的な方法が示されるだけでなく、読後には、行為の帰結にたいする自身の意識が研ぎ澄まされていることに気づくだろう。
目下の現実はどうだろうか。首をかしげたくなるような政策が、とつぜん浮上しては実現し、炎上しては消えていくなかでは、本書の徹底的に「効果」重視で、前向きな考え方に触れることだけでも、痛快な読書だった。(東京大学出版会 神部政文・評)
カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム』(白水社)
ポピュリズムは、需要と供給があるときに初めて力をもつ。この本で強く心に響いた箇所だ。ポピュリストという「供給者」がいるからポピュリズムが蔓延する。そう思い込んでいた。じつは「需要」すなわち人民側がうっすらと政治に期待しながら実現できないと諦めていたことや、どうしても許せない政治家への怒りにふさわしい言葉が与えられる時、ポピュリズムは台頭する。
いま、ポピュリズムがまるで敵のように書いたけれど、本書の副題にあるようにそれはこれまで「デモクラシーの友と敵」であった。友にもなる。政治を「完全な権威主義」(強い集団が決める)と「自由民主主義」(すべての人が議論して決める)を両極とする二つに分類した時、ポピュリズムは権威主義の自由化、民主制への移行にも力を貸してきた。ポピュリズムは上下左右の「ホスト」イデオロギーに寄生して自由自在に姿形を変えることができる「中心の薄弱なイデオロギー」であり、移民排斥主義者の占有物ではないと知った。
歴史的にも地理的にも多様な具体例を比較しつつ、ポピュリズムの定義から民主主義への活かし方までを記した現代政治の入門書。疫病によって政治変動が起きたことは歴史が証明している。今、政治を変えたい人も、変えたくない人にも一読を薦めたい。(みすず書房 河波雄大・評)
宇野重規『未来をはじめる』(東京大学出版会)
「誰でも、何でもいうことができる。だから、何をいいうるか、ではない。何をいいえないか、だ」。本書を読んで、この長田弘さんの詩を思い出しました(「魂は」『一日の終わりの詩集』みすず書房)。
正直、「お先真っ暗」な世の中です。いいことよりも悪いことの方が多いかもしれません(歳のせいか斜陽業界のせいか……)。さらに政治や経済の本をつくっていると、ますます暗く、深刻になります。そしてそんな本で書店は溢れています。
本書では、そうした本にありがちな「人への嫌悪や憎しみといった負の感情を……煽っていく傾向」は微塵もなく、「何をいいえないか」慎重に配慮しながら政治について語っています。また、「悲観的なことを言う方が知的である」という社会的気分を思想史という視角から見事に相対化しています。
本書はもともと高校での講義から生まれた本です。同じジャンルでは、加藤陽子『それでも、「日本人」は戦争を選んだ』(朝日出版社)が知られますが、大人の「学び直し」の側面もひとつの特長になっています。これに対して、本書は「生き直し」を読者に提案します。そうはいっても、それは上からの押し付けではなく、「弱いつながり」への着目や「切断」のすすめといった生き方の流儀です。コロナ禍を受けてますます納得の新・幸福論です。(白水社 竹園公一朗・評)
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