紀伊國屋書店:わたしはこれで短歌にハマりました 『桜前線開架宣言』フェア

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わたしはこれで短歌にハマりました 『桜前線開架宣言』フェア

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『桜前線開架宣言』(左右社)のフェアを開催いたしました。桜咲く春にぴったりのおもしろ短歌アンソロジーです。この本で取り上げられているいくつかの作品からフェア担当の一首感想をご紹介いたします。

 

「なんかおもしろいかも…」と思ったらぜひ手に取ってみてください!

 

※本文<>内が作品からの一首、それ以下がフェア担当の一首感想です。

この本はスペシャルなのですが、その理由は編者の歌人・山田航さんがあとがきで「二十一世紀は短歌が勝ちます」と宣言するくらい短歌のおもしろさを信じているからだと思っています。2 年前にこの本に出会い、笹井宏之さんの歌集『ひとさらい』(書肆侃侃房)に感動して、“こんなにおもしろいものをなぜ今まで読んでこなかったのか…!”と思い、それからは短歌ばかり読んでいます。ぜひ、この本を手に取って、短歌という未知の、そして身近なおもしろさに打ちのめされてほしいと願うばかりです。

<「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい> 「「はなびら」と点字をなぞる」のは偶然じゃなくて、無意識の願いだったんだと思います。点字をなぞろうと俯いていた彼が「桜の可能性」に気づき見上げた顔を思うと、ぼくはこの歌集を読むことが出来て本当によかったと思います。祈りとは笹井さんの歌のことだといつも思うのです。

< 違 い と は 間 違 い じ ゃ な い 窓 ひ と つ ひ と つ に 別 の 青 空 が あ る > 歌集のタイトルにもあるようにどの歌も”あなた”のために作られた歌で、きっと木下さんにとっては”だれか”は存在していなくて、誰もが”あなた”なのだろうと思ってしまうような、心地よいやさしさでいっぱいの一冊です。

< 音 楽 は 水 だ と 思 っ て い る ひ と に 教 え て も ら う 美 し い 水 > 「音楽」を「水」に喩えて話してくれたひとが教えてくれた「美しい水」。そのひとのことをなにも知らないのに、すべてを知ってしまったような錯覚があって、なんだかとても気恥ずかしく、やたらとそのひとのことが気になるし、そのひとから色々と教えてもらったこの語り手にもなんだかやきもちを妬いてしまうのです。それにしても、どんな水なのか、気になります。

< ゆ っ く り と 両 手 で 裂 い て い く 紙 の そ こ に 書 か れ て い る 春 の 歌 > 「ゆっくりと」紙を裂くのは終わらせたいなにかと、すこしでも長く続いてほしいという相容れない葛藤と祈りを感じます。きっと「春の歌」はしばらくの間は後悔として、いつかは思い出となって春が来るたびに胸に去来するのだろうと思い、ぼくは春が来るたびにこの歌を思い出してしまいます。

< 春 だ ね と 言 え ば 名 前 を 呼 ば れ た と 思 っ た 犬 が 近 寄 っ て く る > 「春」だから近づいてきたんだろうなと思います。「近寄って」いくには夏だと暑苦しいし、秋だとちょっと淋しいし、冬だとやさしすぎます。「春だね」と言うときひとは一年間のうちでもっとも無防備で開放的で、そんなひとに犬はつい近寄ってしまうのだと思います。「春だね」と口に出して、返事が返ってくるのを待っていたくなりました。

< 過 去 に だ れ と も で あ わ な い で よ / 若 い き す し な い で よ / 今 産まれてきてよ> きみの好きな人でありたい、できるだけ純度の高い状態で。だから、きみが誰かを好きになった過去はあってほしくないし、きすなんてもってのほかなんだと思います。最高純度の理想を突き詰め、あなたが見る最初の人間はわたしであってほしいという願いに辿り着いたとき、嫉妬という言葉は霞んでしまい、きみへの思いの揺るがなさに動じてしまいました。

< 頑 張 っ て る 女 の 子 と か 辛 い か ら わ た し は マ カ ロ ン み た い に 生 き る > 「辛い」のは「頑張ってる女の子」であり、その子たちを見ている自分自身でもあるんだと思います。「女の子」がなにを「頑張ってる」のか、そしてなぜ「頑張ってる」いるのか。「頑張ってる女の子とか」の「とか」の語調の強さと「わたしはマカロンみたいに生きる」という宣言に、「頑張ってる女の子」であることをやめたことへの想いが込められてるようで、胸を巡った感情の名前を探してしまいました。

<ありったけの小銭をきみの手に落とし 持っているものすべて教えて> 「きみ」のことを知りたいと思う、でも、”なにを”と言われると困ってしまう。知りたいのは一部ではなく全部なのに、その切実をうまく伝えることはできない。だから、神様にお願いするように「小銭を」、しかも「ありったけ」の、「きみの手に落とし」て、想いを願いという行為にしてぶつけるしかなかったのだと思います。願いごとをするのは願いが叶わないことへの保険なのかもしれません。

<あなたはわたしの墓なのだから う つ く し い 釦 を と め て よ く 眠 っ て ね > 「あなた」を「わたしの墓」と呼んでいます。決めつけているようにも見えますが、そうだと信じ切っているのだと思います。あなたとのこれからをいつまでも続けるために、わたしの死をあなたに預けるという約束で、ふたりの関係性をどこまでもやわらかくふたりの私有地にしようとする心の声に永遠を見つけた気がしました。

< ど う し て も 君 に 会 い た い 昼 下 が り し ゃ が ん で わ れ の 影 ぶ っ た た く > ”会いたさ”に眩んでいた脳内が”会えなさ”の現実に気が付いてしまう一瞬、やり場なんてもちろんないのでこんなところにいる「われの影」に腹を立ててしまったのだと思います。会えないきみに甘えないで、「ぶったたく」われの力み、とても好きです。

< 遮 断 機 の 向 こ う に 立 っ て 生 き て な い 人 の 顔 し て 笑 っ て み せ て > 「遮断機の向こう」という距離と「笑ってみせて」という距離感。しかも、ただ笑うだけじゃなくて「生きてない人の顔」をして。でも、死んだ人の顔じゃない。願いではなくて、お願いなのだと思います、今地に足が着いていないわたしに近づかないで寄り添って、という。わたしがわたしでいるために、わたしのお願いを聞いてくれる人は必要なのだと。

< できるだけ遠くへお行き、踏切でいつかの影も忘れずお呼び> 「できるだけ遠くへお行き」となにかをここから逃してあげようとしています。ここがどのような場所なのかはわかりませんが、「遠くへ」とさらに「できるだけ」とつけ加えていて、やさしい言い方で“あなたはここにいてはいけない”と警告してるようにも感じます。さらにただ遠くへと促すだけではなくて、「踏切でいつかの影も忘れずお呼び」と忠告しています。「踏切」に忘れた「影」とはなんなのでしょうか、不穏な匂いがします。

< 気 の せ ゐ よ 一 人 ぼ つ ち は 覗 き 込 め ば 合 は せ 鏡 の 中 を 散 る 花 > 「ひとりぼつち」という言葉は“ひとり”とは違って、だれかにあまえたい気持ちを抱えているさびしさがあるような気がします。合わせ鏡のなかに閉じ込められることで、目をつむりさえしなければたくさんのわたしが目に映る、そんな淡い感情を撫でるように落ちる花びら。なにもいないはずなのになにかいるような気配がします、しかも無数の。花びらが床に落ちるまでの時間は今までになくひとりを感じるのでしょう。

< 目 が さ め る だ け で う れ し い 人 間 が つ く っ た も の で は 空 港 が す き > 「目がさめるだけでうれしい」は衝撃でした。なんたる迷いのなさ!こんなに迷いの見えないうれしさを言う人が「人間がつくったものでは空港がすき」なんて言うもんだから、やけに納得してしまいます。宇宙から愛を脳内に直接受信しているような強烈な電波が駆け巡りました。

< 光 年 と い う 距 離 を 知 り そ れ さ え も 永 遠 に ほ ど 遠 い と 知 っ た > 「光年」とは光が一年間で進む距離のことで、ネットで検索してみたところ約9兆4600億km らしいです。途方もない距離で、手触りなんてまったくないのですが、数字としてのその姿をとらえることが出来ます。しかし、「永遠」はわかりやすい形で姿を見せてくれはしません。姿かたちが見えないものに対して臆病になってしまうことが多いのですが、なぜだか「永遠」は信用してしまうのです。「永遠」という言葉にいったいどれほどの人が救われて、どれほどの人が絶望したのでしょうか。

< わ が た め に 塔 を 、 天 を 突 く 塔 を 、 白 き 光 の 降 る 廃 園 を > 「塔」という高さを手に入れるためには、高さに至る力、権力、富や名声が必要になります。それはある種の自己顕示欲や見栄かもしれないし、ただ高いところが好きなだけかもしれません。でも、誰も周りに人がいないであろう「白き光の降る廃園」で高さを望んでいます。塔から未来を見下ろしたいわけではなくて、過去となりつつある廃園で光を独り占めしたいという、この退廃的な態度を見逃せるわけがなく、ぼくはこの歌集を信頼するのでした。

< ご み 箱 に 天 使 が ま る ご と 捨 て て あ り は ね と か ら だ を 分 別 し て い る > 「まるごと」という言葉が恐ろしく響きます。部分的に天使なものをうまく想像できないからです。さらにその事実を当たり前として、分別しています。天使のどこが可燃でどこが不燃なのか、もしくは資源ごみ…。認識が届かないところの常識は寓話的な恐ろしさに変わります。それにしても、羽根を持たない天使を見たとき、ぼくは天使だと判断できるのでしょうか。

< 3 番 線 快 速 電 車 が 通 過 し ま す 理 解 で き な い 人 は 下 が っ て > 「3 番線快速電車が通過します」という日常から「理解できない人は下がって」という耳の奥に響くような警告に変わり、背筋に冷や汗をかきました。日常が非日常にならないために、たくさんのことを理解し続けていかなければなくて、そのシステムがひとへの信頼や意志に基づくものではなく無言の警告で成り立っていることを理解して、でも、いつかは、いやもうすでに理解できないものに取り囲まれているのかもしれないと思い、ぼくはぼくを信用できなくなりました。

< 月 を 見 つ け て 月 い い よ ね と 君 が 言 う ぼ く は こ っ ち だ か ら じ ゃ あ ま た ね > 夏目漱石が”I love you”を”月が綺麗ですね”と翻訳したという逸話は有名ですが、きっと「ぼく」の頭のなかにはそのことがチラついて、「君」を気になっているかもしれないけれど、love ではないかもしれなくて、そして love には至らないだろうことにも気づいてしまって、でもさよならできるほどの潔さを持ち合わせてるわけでもなくて、「またね」と可能性を手放せない。この歌集には人間がいると強く感じます。

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