紀伊國屋書店:【吉祥寺東急店】文芸・文庫担当が選んだ新春推し本フェア

終了しました

【吉祥寺東急店】文芸・文庫担当が選んだ新春推し本フェア

日時
場所
2022年は待望の復刊や作家のジャンルを越えた新たな試み、
日本初翻訳作品などなにかと激アツな刊行が続きました。
その中から担当が特に推したい作品を集めましたので
興味を持っていただけると幸いです。

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期  間|2023年1月6日(金)~2023年2月28日(火)

場  所|紀伊國屋書店 吉祥寺東急店 新刊フェアコーナー

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編訳者の文学に対する愛がとにかくものすごいのです。まえがきを読んだだけで嬉しくて少し泣いちゃいました。2人に手を引かれ連れられた先の世界はとても広くておもしろい場所でした。日本でほとんど紹介されてこなかった作家を集めたアンソロジーという新たな出会いのわくわく感、たまりません。

何気ない生活の中で幾度となく見過ごしてきた小さな、だけど、かけがえのないあたたかさ、きらめきが詰まった作品集です。言葉を読むことがこんなに嬉しいことだなんて。お守りのように、いつも持ち歩きたくなりました。もう、私たちはシューレースのぐるぐる巻きをマネしなくてもいいんです。

はじめて『園遊会』を読んだ時の衝撃は何年たっても色褪せることなく、何度も繰り返し再読しました。マンスフィールドの作品は色鮮やかな情景描写と人の抱える孤独や不安のコントラストがなんとも印象的で美しく、恐ろしいのです。戦友であり親友でもあるヴァージニア・ウルフの『青と緑』とともにシリーズとして棚に並べられることがとにかく嬉しい。

川野芽生さんを初めて知った第一歌集『Lilith』では、幻想と短歌の融合に惚れ惚れしていたんですが、この作品を初めて読んだときは圧倒的パワーに驚きを隠せませんでした。そのパワーはただ勢いがあるだけのものではなく、川野芽生という人間の芯の強さの表れなんだと思います。 かっこいいんです。痺れます。

歌は誰かに伝わらなくたって、自分のために歌えれば満たされるものだと思います。だけど自分の歌に傷ついてしまう大森さんはこれまで以上に自身を見つめ、短歌と向かい合ってきたのが伝わりました。わかる、なんて生半可な共感はできないけど自然と涙が流れてしまいました。

鏡って美しくもありますが、同時におまじないに用いられたり、ホラー映画では背後に何かが映っていたり…怖い一面もありますよね。そんな魅惑的な鏡について古今東西の文献を交えながら観照しています。詩人である著者多田智満子さんの切れる思考とシャープな文章が明快で面白い。古書店で探し回った本書の約30年ぶりの復刊に小躍りせずにはいられませんでした。

全ての幻想文学ファン待望の古典『サラゴサ手稿』がついに完訳!次々と変わる語り手や入れ子構造の物語にひたすら幻惑されてしまいました。でも惑わされているのを楽しんじゃっている自分がいるんです。分厚いですが訳が素晴らしく読みやすいのでスルスルと読めます。

「子どもだけが楽しむ児童書というものはよくない児童書だ」という〈ナルニア物語〉の著者C・S・ルイスの言葉があとがきに引用されていて嬉しくりました。優しさの中に一滴の(とは言え結構強烈な)苦みを仕込ませてくるのがエイキンの魅力の一つ。大人にこそおすすめしたい作品です。

2022年、個人的に一番心待ちにしていた作品です。カシュニッツを読むとき、得体の知れない不安に襲われるんですが、詩的な文章が心地よく読む手を止めることが出来なくなってしまいます。 日常の隙間から入り込んできた幻想に人間の心理が揺るがされる。

注目のメキシコ女性作家による不穏で奇妙な味の短編集。人に内在する繊細な部分がむき出しにされて直視するのが怖くなるような、それでも抱きしめたくなるような愛おしさを感じました。身にまとわりつくようなぞわぞわした空気がネッテルの最大の魅力です。

スパニッシュホラーとは社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品のこと。いま最も注目すべきジャンルでナバロが初めて邦訳紹介されたことがしきりに嬉しい。そして装幀がかっこよすぎてため息がもれます。

ガルシア=マルケスと言えば『百年の孤独』のイメージが強いですが、真の魅力は中短篇にあると思います。不条理な世界が絵画のように描き出され、残酷なシーンですら美しく感じてしまいます。マルケス入門におすすめの1冊。

エッセイとは言えどもまるでショートショートを読んでいるように、赤染さんの目を通して見える世界は愉快であたたかくて愛おしい。ところかまわず「ふふっ」と声を漏らしてしまうこと間違いなしです。新年の読み始めにぴったり。

時代に翻弄され、彷徨うように旅を続けた彼女の言葉は無駄がなく真に迫っている。ナチスに迎合する富豪の両親への反発、同性愛、薬物依存。彼女は静かに、整然と、人生の儚さを訴えかけてくるのです。

『激情』という副題(あとがきによると副題というよりは「ジャンル表示」の変種のようなものらしい)が全てを物語っています。音楽で例えるならドゥームメタルです。改行なく永遠と続く独白にだんだんとテンションが狂わされいく、それこそベルンハルトを読む醍醐味だと思います。

スパイものといえば、主人公が敵組織に捕まる、その組織の美女と懇ろな関係になる、そのおかげで脱出ができ、敵は壊滅し、爆発と共に大団円に至る、というのが常道ですが、この本ではそれがいい意味で裏切られることとなります。政治的な小説――この場合は高度に地政学的な小説――というのは個人的に苦手な部類に入るのですが、ユーモラスな語り口が中和して楽しく読めました。

このようなタイトルを見るとそれぞれの言葉は何の隠喩なのか考えたくなるのは私だけでしょうか。個人的には「領土と暴力」の意味と考えますがいかがでしょう。そして領土と暴力とはすなわち戦争であって、戦争を描くにはこの文量が必要だったということだと思います。

環境に目配せするSF作家は意外と多いです。ディストピアSFなどで破滅した地球を描くこともあるからでしょうか。あるいは科学に精通していて、長所も短所も酸いも甘いも知っているからでしょうか。私の知る限りでも環境への警鐘を鳴らしてきた作家はロバート・F・ヤング、レイ・ブラッドベリ、テリー・ビッスン、リチャード・パワーズ(パワーズはSF作家ではないかもしれませんがSFを書いてはいるので)など数え上げればキリがありません。ダグラス・アダムスもその一人です。作者一流の軽妙な語りに誘われながら地球環境、ひいては動物の生態について考えるきっかけになる名著です。

上記の「これが見納め」がノンフィクション、事実や歴史の視点から絶滅動物に迫るものとすれば、こちらはフィクション、虚構と想像力で、英国から姿を消した熊を描き出します。この著者にかかればもはや熊は熊の域を逸脱し融通無碍にその魅力を見せてくれます。時にそれは 象徴的でもあり、ナンセンスでもあり、この本を閉じたとき読者はめくるめく熊のイメージの反乱に圧倒されますが、そこではたと気づくのです。ああ、もう彼の国に熊はいないのだ、と。

20世紀ドイツ最高の詩人の長く愛されてきた書簡がついに完全版に、というとハードルが上がりすぎてもはや棒高跳びかというくらいにはなりますが、要するにラジオ番組のお悩み相談コーナーや新聞の連載投書欄だと思っていただければ身近に感じられるのではないでしょうか。実際にリルケが広く悩みを募集していたわけではありませんし、もちろんラジオでパーソナリティとのやり取りが何通も何通も続くことなんて稀とは思いますが、カプスの悩みに真剣に答える詩人リルケ、という構図は当てはまると思います。カプスの悩みは孤独と愛、生と死について。もし同じ悩みを抱えている方がいらしたら、リルケの言葉が励みになるかもしれません。

上記の完全版はちょっといきなり手が出ないんだがという方に、こちらもありますよ、というわけで文庫版も載せさせていただきました。こちら2022年出版ではありませんがお許しください。「若き女性への手紙」もついてお得です。どちらかといえばリルケの返信だけをまとめたこちらが人口に膾炙しています。歌人でもあった高安訳は流麗で音楽的。永遠の名訳です。

こちらの本も2022年出版ではありませんが、『大人になる時』ではちょっと大部だなという方にオススメしたい書籍です。一つ一つが短く読みやすいのが特徴の短編集です。5分間で1話が読めるかは人それぞれとは思いますが(実際に計測したところ、読むのが遅い私は一番長い短編に11分かかりました)。また、ショートの大御所、星新一や筒井康隆とは違った魅力がありますので、それを味わっていただきたいです。特に著者の十八番の異星生物 SF、 チャンバラのおもちゃを模した生物ナイフが登場する短編が素晴らしいです。

2022年も草上仁の本が出たことに感嘆を禁じえません。作者は1982年のデビューから40年の時を経て、いまだに現役バリバリで面白い短編をコンスタントに生み出しています。この本は1990年代の未収録短編がメインですが、それは編者が巻末で明かしているようにコンセプトの問題で、作ろうと思えば半分新作にもできたようです。いやはや、恐ろしい。昨 年はヤクルトスワローズの村上宗隆がシーズン最多本塁打と最年少3冠王を獲得し列島を沸かせ、「村神様」が流行語になったりもしましたが、私にとってはいつだって「草神様」なのです。

この短編集を語るとき先行作に触れないわけにはいきますまい。表題作は『なめらかな社会とその敵』(ちくま学芸文庫)をオマージュしたタイトルと思しく、さらにエピグラフにあるようにR・A・ラファティ『町かどの穴 ラファティ・ベスト・コレクション 1』(早川文庫)の表題作「町かどの穴」と、ユエミチタカ『超日常の少女群-ユエミチタカ作品集』(イースト・プレス)所収の「マルチヒロイン」から霊感を得て書かれました。「美亜羽に贈る拳銃」は伊藤計劃『ハーモニー』(早川文庫)への返歌、「ホーリーアイアンメイデン」は夢野久作『押絵の奇跡』(角川文庫)の表題作を彷彿とさせる書簡体小説です。何やら目録のようになってしまいましたが、これこそ作者の博覧強記の現れでしょう。しかしこうした裏事情を丸っきり知らなくとも、泣き、笑い、心を動かされてしまうから恐ろしいのであります。

伴名練の博覧強記はどこに由来するのか、この本を読めばその一端が垣間見えるかもしれません。この本は伴名練が埋もれた傑作を発掘することを目的に編んだアンソロジーのため、編者の作品は一つも載っていませんが、各作品の間に詳細な解説兼ブックガイドを書き下ろしています。そこで矢継ぎ早に繰り出される先行作品の多いこと。そしてかゆいところに手の届くセレクト。まさしくそれは愛です。SFへの愛です。

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