奇病が流行った。
ある者は角を失くし、ある者は翼を失くし、ある者は鉤爪を失くし、
ある者は尾を失くし、ある者は鱗を失くし、ある者は毛皮を失くし、
ある者は魂を失くした。
何千年の何千倍の時が経ち、突如として、
失ったものを再び備える者たちが現れた。
物語はそこから始まる--
現代歌人協会賞に輝く歌人にして、小説でも読者を魅了する新鋭・
川野芽生さん初の幻想長編小説。
『奇病庭園』
著:川野芽生 出版社:文藝春秋
価格 ¥2,200(本体¥2,000)
(2023/08/04発売)
トリガーウォーニング(ややネタバレ)!!
⚠心身の病気や障碍による差別、排除の描写があります・特に、精神疾患があると見なされた人に対する、現実の歴史における劣悪な待遇を想起させる具体的な描写があります
⚠文字を読めない人や失読症の人に対する差別、搾取の描写があります
⚠セクシュアリティやジェンダーアイデンティティを理由とした差別、暴力の描写があります
・トランスジェンダーの人物に対する差別、暴力の具体的な描写があります
・アセクシュアルの人物に対する差別や性暴力、コンバージョン・セラピーを想起させる具体的な描写があります
⚠その他、様々な差別が描かれています
(直接的にセクシュアルなシーンはありません。暴力的なシーンは少しあります)
⚠トランスジェンダーの人物の表象について
・トランスジェンダーの人物が作中で「男でも女でもない」と言われていますが、全てのトランスジェンダーがそうであることを示すものではありません
・トランスジェンダーの人物が作中で特殊な代名詞で呼ばれていますが、全てのトランスジェンダーが「男でも女でもない」ことを示すものではありません
川野 芽生(かわの めぐみ)
2017年、「海神虜囚抄」(間際眠子名義)で
第3回創元ファンタジイ新人賞の最終候補に選出される。
2018年、「Lilith」30首で第29回歌壇賞を受賞し、
2020年に第一歌集『Lilith』(書肆侃侃房)を上梓。
同書は2021年に第65回現代歌人協会賞を受賞。
2022年、短篇集『無垢なる花たちのためのユートピア』(東京創元社)、
掌篇集『月面文字翻刻一例』(書肆侃侃房)を刊行。
短篇・掌篇は星のように散らばり、天に住む蜘蛛が吐く糸によって星座となるような……。
そして星座たちは巡り、ひとつの物語・ひとつの宇宙としての姿を見せる。
星々が咲く庭園を歩く。
この庭園には、額から角の生えた老人や翼の生えた妊婦が在るようだ。
否、それこそが私たちの姿だったではなかろうか。
幻想の姿は現実と地続きで、ジェンダーや差別といった我々の住む世界のさまざまな困難をはらんでいる。
それらは押し付けではなく、ただそこに在る。
角、翼、鉤爪、毛皮、尾、複眼の瞳……、人間が忘れたキマイラの記憶、魂の多様性。
なくしたものの多い私たちは、すでに病に罹っているのだ。
川野さんの選書コメントを載せています。
ぜひご覧ください!