紀伊國屋書店:決して網羅的ではない、大江健三郎ブックリスト

決して網羅的ではない、大江健三郎ブックリスト

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 遅ればせながら『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読み始めた昼休みを終え、社内メールをチェックした時に飛び込んできた文字列に、私の中のすべての動きが止まりました。

 「【訃報】大江健三郎」

 いつかはこの日が来るだろう、とはずいぶん前から思ってはいましたた。覚悟はしていたはずなのに、いざとなるとまったく身も心もアチコチにガタがきたようでぎこちない。

 まったく不完全であり網羅性もありませんが、とにもかくにもブックリストを作ることから始めようと思います。完全に順不同で思いつくままに入れ替えたりします。コメントは独自作成。オフィシャルな内容紹介はお手数ですが商品情報のリンク先でご確認ください。

 なお、紙の本で入手しづらいものであっても電子版があるものは上げています。商品情報画面から「電子版はこちら」をクリックしてみてください。

(3/30追記)電子版がないものもあげるようにしました。

 

 文責:店長 大籔宏一

*画像は『大江健三郎全小説』全巻予約特典であった大江さん直筆色紙(私物)

【2023/03/24】

・『万延元年のフットボール』『洪水は我が魂に及び』『同時代ゲーム』『燃え上がる緑の木』をアップ

【2023/03/25】

・『ピンチランナー調書』『芽むしり仔撃ち』『遅れてきた青年』をアップ

・サイト画像を変更

【2023/03/30】

・『死者の奢り・飼育』『あいまいな日本の私』『懐かしい年への手紙』をアップ

・配置一部入れ替え

・『大江健三郎全小説』(講談社)収録作品についてはその収録巻数を記載(短編集についてはコメントした作品のみ対応)

【2023/03/31】

・大江さんとの関連が強いものとして、渡辺一夫『狂気について』、伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』、『伊丹万作エッセイ集』、中野重治『歌のわかれ・五勺の酒』をアップ

【2023/04/01】

・『厳粛な綱渡り』をアップ

【2023/04/08】

・『持続する志』『個人的な体験』『空の怪物アグイー』をアップ

【2023/05/05】

・『新しい人よ眼ざめよ』をアップ

最初に手にとるとしたらやはりこれかも

『大江健三郎自選短篇』(岩波文庫)が手ごろであるのは分かっているのだが、それはそれとして自分が慣れ親しんだ版を取り上げたい気持ちは抑えることができない。 「死者の奢り」はやはりいい。行間から得も言われぬにおいとどうしようもない疲労感が浸潤してくる。芥川賞受賞作「飼育」もよいが「人間の羊」もグッとくる。【全小説1】

かなり親しみやすい講演録

表題ともなっているノーベル賞記念講演が冒頭に収録。改めて渡辺一夫にさかのぼりたい衝動に駆られるも、大江さんが解説を記した『狂気について』『フランス・ルネサンスの人々』(いずれも岩波文庫)は現在新刊ルートでは入手困難。この話はまたいずれ。 あえて表題講演でないところについていえば、「新しい光の音楽と深まりについて」(94年)は、文学あるいは芸術についての見方を提示してくれるもの。ほんの少しではあるが、村上春樹さんへの言及は興味深い。 また、「井伏さんの祈りとリアリズム」(94年)も、読者としての大江さんの姿が実にいきいきと語られていて読み返すたびに発見がある。「井伏鱒二と宮澤賢治」の言葉は味わい深い。この意味はぜひ本文にて。

ザ・代表作オブ代表作

登場人物たちの置かれた閉塞した情況、どうしようもなく行き詰ったあげくの「暴力」。生々しく絶望的であっても、どこかに希望を見出せる気がするのは不思議である。一言一句を理解しようとするよりも、喚起されるイメージに身をゆだねてみるとよいかもしれない。酒に自信があるなら、ウィスキーを傾けながらでもよいだろう。【全小説7】

末期的想像力に溺れる

単行本上梓は1973年。この年代が重要で、時代背景を想像してみたほうがとっかかりやすいだろう。あさま山荘事件の翌年。しかし、ここでつまずく方も今は少なくないのかもしれない。が、第九章「大木勇魚の『告白』」や第十章「相互教育」などには、時代を超えた普遍的なものが感じ取れると思う。【全小説7】

陰惨なリンチ、逃亡、混乱。そしてやがて訪れる「●」……(あえて明記しない)。こうなるほかなかったのか? もっと違う途はとりえなかったのか? そう感じた時点ですでに物語世界にどっぷりとつかっていることに気づくはず。【全小説7】

「救う」こと、「救われる」こと、について

「新しいギー兄さん」といわれてピンとこなくても全く構わない。初読時の自分がそうだったから。そんなことが気にならなくなるくらいのめりこめる、はず。【全小説12】

人は集まり、反発し、ある時は結束し、ある時は排除する。誰かを持ち上げたりさげすんだり、これはどうしようもない人間の性なのか? 「魂のこと」につきすすむことの難しさが数々の箴言に彩られて展開していく。【全小説12】

緊張が最高潮に満ちる最終盤。力強くも弱いギー兄さんの生き様が示すものはなんであったろう? あまりの痛ましさに叫びたくなりながらも、どこかに希望を感じさせるのは『万延元年』以来変わらない。大江作品に心ひかれ続ける理由はそうしたところにあるのかもしれない。【全小説12】

今いる場所を問い直す

畳みかけてくるような「壊す人」のイメージに思わずたじろいでしまう部分があるのは否めない。が、山奥の森に囲まれた集落の歴史にとてつもないものが隠されているというのは痛快ではある。では、こうした「根」となるような場所を持たないように思われる者はどうすればよいのだろう?【全小説8】

精緻かつ重厚な建築を思わせる

作家として個人としての自伝的要素を多分に含みつつ「文学」として成立する、この時の大江さんにしかなしえない作品。『万延元年』『同時代ゲーム』に連なるのは当然として、『燃え上がる緑の木』以降の作品群にも通ずるものを感じさせる。これを読んでしばらくはビルや百貨店の階段・エスカレーターを上り下りするときに左廻り・右廻りを意識するようになった。もっとも、次第にどっちがどっちだかわからなくなったのだが……(第二部第五章「性的入門」)。【全小説11】

これは「喜劇」と呼びうるか?

 例えば『洪水』に比べれば、軽妙軽快には違いないのだが、「喜劇」と言われると、はて、と思うのが正直なところ。でも、嫌いじゃない。「大物A氏」に様々な政治・社会問題を仮託できた時代に比べて、現代は幸福なのだろうか、などとも思ってしまう。【全小説5】

長編第一作

開放から絶望。いや、その前にはやはり絶望的な閉塞があったのだった。山奥のしかも戦中の話なのだから現在とは時代背景は違いすぎる。なのに妙に感情移入できてしまうのはなぜなのか。【全小説1】

ひょっとして、誰しもが「遅れてきた」のではないか

自分自身のために、自分の同世代のために、書き記したのだろうと思える。ここで「遅れてきた」というのは兵隊になる前に戦争が終わってしまった作者自身のことだけれども、それぞれの世代なりの「遅れてきた」感覚はないだろうか。氷河期世代の私(たち)は明らかにバブル景気に「遅れてきた」! とすれば、「遅れてきた」ことをいかにうけとめるか、その手がかりがあろうというものではないか。私(たち)の世代に限らない。いま、「遅れてきた」と感じるすべての世代に通ずるなにかが見いだせようものではないか。【全小説2】

第一エッセイ集

時代と格闘し続ける精神、というと格好良すぎるだろうか。しかしそうとしかいいようがない。当時の国際情勢の見方など、むろん今日からはどうとでも言えることは少なくないが、そう思うのであれば今を生きる者が今と格闘すればよいだけである。特に私が惹かれるのは第五部「ぼくはルポルタージュを作家修行とみなす」。なかでも「プラットフォームの娘たち――鉄道弘済会」は名作。第二エッセイ集『持続する志』ともども入手困難なのが残念。【入手困難】

第二エッセイ集。「想像力」と「子規」

『厳粛な綱渡り』に続く第二エッセイ集。「記憶と想像力」「死んだ学生への想像力」「政治的想像力と殺人者の想像力」など、印象的なタイトルが並ぶ。この愚直なまでに真摯な姿勢は、ある種ぶっとんだところのある小説世界と切り離せないように思われる。また、最後に収録された「学力テスト・リコール・子規」は、やや珍しい印象を受ける。学力テストと愛媛といえばある世代にはすぐに結びつくものであろうと思われるが、そうした社会・教育問題を記しつつも自身の故郷と子規について触れた筆致は実に愛惜にあふれるものである。【入手困難・電子版あり】

「下降」と「再生」

20代の時には全く響かなかった。いま読み返すとぐいぐいくるのはなぜか。「鳥(バード)」とあだ名される主人公はひどくもありありまっとうでもある。それをどう感じるか。私にとってはリトマス試験紙のような作品。【全小説5】

日常生活をかえてしまう力がここにある

表題作は短編。「アグイー」と名付けられる怪物の存在を実感している音楽家と、彼に雇われた「ぼく」との物語。小説だが詩のような、というのは大江作品の特徴の一つであると思うが、それが特に強く感じられる作品。読後には、自分の日常生活の捉え方が変わる、そんな力がある。

ラストシーンの幸福感は必読

作家の日常を描いているだけ(その割にはそれなりに波乱はあるけれど)といえばそれまでなのだが、日常に潜むなんともいえない「やりきれなさ」と背中合わせにある「明るさ」が感じられる。最終章のラストシーンは何とも言えぬユーモアと幸福感に満ちていて美しいことこの上なし。【全小説5】

【関連】最も影響を与えた師

『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』(三田産業)、『五つの証言』(中公文庫)などでも渡辺一夫は読める。が、ここは大江解説を収録したこの版を推したい。いまのところは入手が難しいようではある。もっとも著名なエッセイ「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」は必読。極めて平易かつ品位とひそやかな情熱を感じ取れる名文である。【入手困難】

【関連】年長の友人にして義兄

松山でこの人と出会っていなければ大江さんの人生はまたちがったものになっていたのか、どうか。きっと二人だけに通じ合う何ものかがあったのだろう。作品中に思わせるものは多々あるが、ここはやはりスパゲッティに注目しておきたい。『洪水は我が魂に及び』第二章で勇魚とジンが食べるそれは、この伊丹さんの軽妙なエッセイに登場するものである。

【関連】名映画監督であり名文筆家であった義父の足跡

伊丹十三の父、ということは大江さんの義父でもある。大江さん自身が編纂した万作のエッセイ集。これを読めば『取り替え子』第一章でのやりとりがより生き生きと捉えられるはず。特に「演技指導論草案」と「戦争責任者の問題」は今なお力強く読む者に迫ってくる。【入手困難】

【関連】思慕し続けた先達の一人

大江さんが影響を受けた人は実に多岐にわたるが、その中でも大きな位置を占めた一人と言っても過言ではあるまい。中でもその詩から受けた影響は大きいと思われるのだが、ここではあえて「春さきの風」をあげたい。いまこの版で比較的容易に読むことができる。

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