海外店舗現地レポート
初めて出店したころの紀伊國屋書店の海外店舗は、主に日本人駐在員のお客様向けの品ぞろえを中心としており、同時に日本の伝統文化紹介の窓口としての役割も担っていました。 現在では、同じ日本文化でも「ポップカルチャー」を中心に紹介しつつ、現地のお客様に日常的にご愛顧いただく現地語の書籍を売る書店として頑張っている店舗が増えました。各地の店舗の様子をご紹介いたします。
(情報は2016年2月のものです)
ドバイ店 Dubai Store
自分で本を探すのが面倒なのか、はたまたスタッフが召使いに見えるのか、この本を今すぐここに持って来いというアラブ人のお客様は多い。こういう時、全世界の紀伊國屋書店の内で一番広い6,000㎡(1,815坪)の店を疎ましく思う。また、「ここは中東なのになぜアラブ書が店の入り口近くのところではなく店の奥の方にあるのか」、ともよく言われる。普通、美味しいものは後に取っておくじゃないですか、というと納得される、らしい。
ドバイ店のスタッフの国籍が20以上あるようにお客様も様々である。当地のスーパーでもよく見かける光景だが、買い物カゴに買いたい商品を山のように入れてくださるのはうれしいのだが、問題はカゴから商品を出しながら買うかどうかをレジ前で友達・家族で吟味し直す。吟味するタイミングが日本人とはかけ離れている。
中東の夜は長い。紀伊國屋書店ドバイ店が入っているドバイモールも夜が長い。ショッピングモール全体が2日連続24時間営業ということもあった。朝4時に店の様子を見に行ったが、お客様は数名いるだけで売上に繋がるわけでもない。通常ショッピングモールの営業時間に合わせ午前零時に店を閉める。とあるお客様は週に一、二度決まって閉店間際にだけ来られる。必ずご購入される良いお客様なのだが......。とある日、いつも通り午後11時50分頃に来られたが、店の様子がいつもと違い閉店する気配がまるでない。「まだ閉店じゃないのか」とお客様、「今日はイスラム教のお祭りで午前2時まで営業です」とスタッフ。「ではまたその時間に」と店を後にされたらしい。
【パシフィック・エイシアン地区 副総支配人 川上幸弘】
シンガポール本店 Singapore Main Store
とても小さな都市国家だけど、人と物と情報の交流拠点として発展著しいシンガポール。今年建国50周年をむかえるこの国に出店して、すでに30年以上が経過する。
「文化の交差点」というモットーそのままに、シンガポール本店1,000坪のフロアで扱う書籍は、多種多言語。8割を占める英語の書籍は、シンガポール現地の刊行物のほかイギリス、アメリカから仕入れるのはもちろん、中国語書籍も台湾、中国本土、香港の刊行物をそれぞれ別ルートで仕入れる。そのほかにはフランス語、ドイツ語の書籍、もちろん日本語書籍も扱っており、仕入伝票には各国通貨単位がズラリ。迷子の案内放送も多言語対応だ。
そんな品揃えは、ここに来店されるお客様の顔ぶれの多彩さを反映している。地元シンガポールのお客様はもちろんのこと、周辺諸国のお客様、ビジネスで立ち寄った欧米系の方、さらにマレーシアのサルタンやインドネシアの大統領、タイの王女までが来店されて本を購入される。国の教育機関の蔵書目的でマカオやモルディブ、スリランカ等、周辺の国々の大学や図書館関係者の来店も珍しくない。
わざわざ外国に来て外国の人に外国の本を売っているのは、各国の読書文化を支援するための舞台作りであると信じている。「小さい頃から紀伊國屋で買った本を読んで育った」と聞く機会がある。こうした読書体験をさらに提供するために、今日も現地スタッフとの議論に熱くなる。
【シンガポールエリア支配人 山田拓也】
サンフランシスコ店 San Francisco Store
海外から見た日本と言えば「マンガ、アニメ、ゲーム」を抜きには語れない。とはいえ、北米におけるマンガ市場の規模は2007年にピークに達し、大手ケーブルテレビにおけるアニメ放映数の減少に伴い、マンガを取り扱う米系書店は徐々に減ってきた。そんな逆風の中で、Kinokuniyaはマンガ・アニメ・ゲームファンのコミュニティの中心となるべく、リアル書店として奮闘を続けている。北米各地で開催されるマンガ・アニメのコンベンションに年10回以上出展し、人気イラストレーターの画集や、フィギュア等のコレクタブルアイテム等において他の米系・中国系業者には真似できない品揃えでお客様を魅了している。
アメリカの『Otaku』はとにかく明るく、店内から「Oh my god!」「I love this Anime!」などと叫ぶ声が聞こえてくるのも日常茶飯事。書棚の前で友達と一緒にワイワイやりながら自分の好きな作品について熱く語るのがアメリカ流。〈オタク〉と〈Otaku〉は別モノ?なのかもしれないが、そこにある熱量を生み出しているのは間違いなく日本人であり、世界に誇れる文化の一つだと感じている。
【サンフランシスコ店/サンノゼ店 店長 熊島 正博】