2025年2月1日(土)から朝井リョウさんの受賞コメントやスタッフの推薦コメント、選考委員の選外の1冊などを掲載した小冊子を店頭で無料配布します!
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(2025年2月17日(月)18:30~/紀伊國屋ホール)
キノベス!2025
(2023年12月~2024年11月出版の新刊/第22回)
キノベス!2025 第1位『生殖記』
朝井リョウさん特別寄稿「生殖記」を書くうえで、一つだけ決めていたことがあります。それは、人類に肩入れしない、ということです。
これまで私は小説を書くとき、“世界があって、話者がいる”という順序で構想を練っていました。自分の内側ではなく外側、つまり世界・社会・人類の方に正解と思われる何かがあると認識していたのです。ゆえに、小説内の話者が世界・社会・人類とのズレに悩むという展開が多く、言い換えると、あらゆる作品が世界・社会・人類を基準とした善悪に支配され、似たような輪郭になっていたかと思います。
ここ最近、土台となる思考の順序が入れ替わってきました。つまり、“話者がいて、世界がある”という前提で小説に臨んでもいいのでは、と思うようになったのです。本作はその感覚のもとで書いた初めての作品なのですが、その場合、「読者に前向きな気持ちになってもらいたい」とか、「この小説で社会を前に進めたい」とか、そういった考えが脳内から消え失せるということを知りました。現時点の現実が“前”と捉えている事象と作中での“前”が重ならないことが、(わざと反対のことを書くということではなく)特に気にならなくなったのです。
そんな執筆体験だったので、本作が現時点の現実から支持される可能性は限りなく低いだろうと見積もっていました。なので、今回の報は寝耳に水以上の出来事です。
ただ、驚いたのと同時に、想像以上に多くの方々が“話者がいて、世界がある”という順序にしっくり来ているのではないか、とも感じました。それはつまり、作中での“前”が、たとえ現時点の現実における圧倒的後退と重なる場合でも、小説という枠の中では筆を緩める必要などないということなのかもしれません。この気付きは今後執筆を続けていくうえで、私にとって大きな励みとなっています。
最後に、紀伊國屋書店のとある書店員さんからいただいた本作への感想を一つ、紹介いたします。
『この本が売れたらみんなどうなっちゃうんだろう』
そのような感想が生まれ得る本を送り出すことに手を貸していただき、心より感謝申し上げます。
撮影/トルヒト 井出 真朝井リョウ(あさい りょう)
1989年、岐阜県生まれ。小説家。
2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木賞、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。最新刊は『生殖記』。その他の著書に『どうしても生きてる』、『死にがいを求めて生きているの』、『スター』など。作家生活15周年となる2025年、日本経済新聞で連載していた長編小説『イン・ザ・メガチャーチ』を刊行予定。*プロフィールは当時のものです。
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