キノベス!2012
(2010年12月〜2011年11月出版の新刊/第9回)
キノベス!2012 第1位『舟を編む』
三浦しをんさん 特別寄稿辞書は「言葉」という希望を乗せた舟
「いままで生きてきたなかで、『第1位』という事態を経験したことあったっけな」と考えてみたのですが、該当する記憶がまったくありませんでした。脳内の空白地帯を埋めてやろうというシナプスの粋なはからいなのか、徒競走で万年ビリだった映像がよぎりだす始末。これが噂に聞く走馬灯? だとしても、その記憶は再生してくれなくていいから。はじめての事態に直面し、緊張と動転のためか現在腹具合が悪いです。
『舟を編む』は、辞書を作ろうと奮闘する人々の物語です。読者と本との仲を取りもつ最前線にいらっしゃる書店員のかたが、辞書と言葉にまつわる『舟を編む』を「オススメしたい」と思ってくださったこと、とても光栄でうれしく、我が腹なぞいくらでもピーピー言うがよい、という心境です。本当にどうもありがとうございます。
作中では話がややこしくなるので、電子辞書については触れませんでした。しかし実際は、電子辞書の中身も、紙の辞書があるからこそ成り立っています。だらだらと単語を費やしてもいいのなら、言葉の意味を説明するのは比較的容易です。けれど、できるだけたくさんの言葉の意味を、いかに簡潔に、正確に、紙という有限のスペースのなかに凝縮させていくか。そこに辞書づくりの技と苦悩と楽しさがあり、辞書の魅力もそこから生まれているのではないかと思います。
紙の辞書はもちろんのこと、それをもとにした電子辞書にも、「辞書」という書物の魅力、個性は息づいています。
もし本書をお読みになって、辞書への興味を抱いてくださるかた、言葉の持つ力に思いを馳せてくださるかたがいらしたとしたら、これ以上の喜びはありません。
三浦しをん(みうら しをん)
1976年生まれ、東京都出身。2000年、『格闘する者に○』でデビュー。2006年、『まほろ駅前多田便利軒』で第135回直木賞受賞。小説作品に『風が強く吹いている』『神去なあなあ日常』『まほろ駅前番外地』『天国旅行』『木暮荘物語』『舟を編む』などがある。エッセイ作品に『あやつられ文楽鑑賞』『ふむふむ おしえて、お仕事!』ほか多数。最新刊はエッセイ『黄金の丘で君と転げまわりたいのだ―—進め マイワイン道!』(岡元麻理恵さんとの共著)。*プロフィールは当時のものです。
キノベス!2012 第2位『コミュニティデザイン』山崎亮さん 特別寄稿
設計事務所に勤務しているときも、独立して仕事を始めてからも、最寄りの書店は紀伊國屋書店(梅田本店)でした。本が必要になればいつも駆け込んでいた書店です。このたび、愛着ある紀伊國屋書店の「キノベス!」に『コミュニティデザイン』が選ばれたとの知らせを受けました。とても嬉しいことです。紀伊國屋書店に通い続ける私を店員のみなさんが見ていて、「そろそろ選んでやろうぜ」という話になったのかもしれません。この受賞を期にコミュニティデザインという考え方がさらに広がり、つながりが求められる時代において各地で新たな取り組みが生まれることを願っています。次の本がまた「キノベス!」に選ばれるよう、これからも紀伊國屋書店に通い続けようと思います。このたびはどうもありがとうございました。
山崎亮(やまざき りょう)
1973年愛知県生まれ。studio‐L代表、京都造形芸術大学教授。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザインなどに関するプロジェクトが多い。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」「震災+design」でグッドデザイン賞、「こどものシアワセをカタチにする」でキッズデザイン賞、「ホヅプロ工房」でSDレビュー、「いえしまプロジェクト」でオーライ!ニッポン大賞審査委員会長賞を受賞。*プロフィールは当時のものです。
キノベス!2012
(2010年12月〜2011年11月出版の新刊/第9回)
*推薦コメントの執筆者名に併記されている所属部署は当時のものです。現在は閉店している店舗もあります。