キノベス!2015
(2013年12月〜2014年11月出版の新刊/第12回)
キノベス!2015 第1位『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』
佐々涼子さん 特別寄稿出版を支える人々の意地とプライドを読者へ
初めて取材に行った日、穏やかに広がる鈍色の海を背に、日本製紙石巻工場は建っていました。煙突から立ち上る白い水蒸気は海風に流れ、消えていきます。ここで本の紙が生まれ、我々の元に運ばれるのだと思うと、万感迫るものがありました。私たちは誰も孤立しては生きていない。名も知らぬ誰かが私の仕事を支え、私の仕事が誰かを支えている。それを、この工場に集う大勢の人々が私に教えてくれました。
私はよく深夜にひとりで文章を書いています。あたりは静寂に包まれますが、あまり寂しくありません。石巻には特別な時間が流れ、巨大な抄紙機8号が、シューシューと音をたてながら、動いていると思えば。
このたびは、キノベス一位に選んでいただいてありがとうございます。本当は職人さんたちにお聞きして、受賞の言葉をまとめるべきなのでしょうが、きっとシャイに微笑むだけでしょう。そこで今回は、本文を抜粋してご挨拶とかえさせていただきます。この本に携わったすべての人を代表してお礼を申し上げます。そしてこの本に携わったすべての人たちにこう申し上げたいと思います。「おめでとうございます。」
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「機械に魂なんてこもっていないと思うでしょう?
でも、8号は魂を感じるマシンでね。
もうすぐ50歳になる古い抄紙機で、アナログ機だ。8号が作った紙は書店でもすぐわかる。独特のクセがあるからよ。触りゃあ、わかります。書店で自分の作った紙に会ったらどう思うかって?『ようっ』って感じですね。震災直後、風呂にも入れない、買い物も不自由、そんなささくれだった被災生活の中で、車に乗って俺たち家族はどこへ行ったと思う? 書店だったんですよ。心がどんどんがさつになっていくなか、俺が行きたかったのは書店でした。
俺たちには、出版を支えているっていう誇りがあります。俺たちはどんな要求にも応えられる。出版社にどんなものを注文されても、作ってみせる自信があります。」
(震災当時の8号のリーダー佐藤憲昭氏の言葉)
佐々涼子 (ささ りょうこ)
1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経て、ノンフィクション・ライターに。新宿歌舞伎町で取材を重ね、2011年『たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん』を上梓。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年6月、『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』を刊行、愛書家を中心に大きな話題を呼んでいる。*プロフィールは当時のものです。
▶海外店舗現地レポート(「キノベス!2015」フェア小冊子より)
キノベス!2015
(2013年12月〜2014年11月出版の新刊/第12回)
*推薦コメントの執筆者名に併記されている所属部署は当時のものです。現在は閉店している店舗もあります。