キノベス!2022 第1位『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬さん 特別寄稿本作で舞台として扱い、あるいは言及した地域の名称は、執筆の最中であった2020年から、出版を迎え年が明けた2022年初頭の今に至るまで、悲しいニュースとして常に報道され続けています。果たして自分がこの小説を書いた「意味」とはなんであったのか、と途方に暮れることもしばしばでした。
しかし本作を書き終えた私は、少なくともこれら無数の悲しみを他人の事として自分自身から切り離すことができなくなりました。私個人にとっては、それが「意味」であったようにも思えます。
この度は「キノベス!2022」第1位に選出いただき、まことにありがとうございました。
紀伊國屋書店様のウェブサイトは、書影が出る前からトップページに本作の赤いバナーを表示していただき、大変嬉しい驚きを覚えた記憶があります。また、発売直後の書店巡りでは、各店舗の皆様に熱い感想をいただき、あるいは手書きのポップや作品解説など、素晴らしい展開を直に見て驚喜いたしました。
小説が売れるのは作家一人の力量ではなく、書店員の皆様の力強い後押しがあってのことと感謝申し上げます。
また、本作の出版をめぐっては、各書店で主要参考文献一覧に記載した書籍を中心に、「関連書物を併売する」というあまり類例がないキャンペーンをしていただき、こちらも盛り上がりをみせております。私自身、膨大な参考資料に支えられて小説を書き上げた身ですから、それらの売り上げに貢献することができれば大変嬉しく思います。
そして、もしも私の小説を読んでくださった読者の皆様が、それをきっかけに、過去と現代を問わず、現実の戦争を想起し、そこに生じる人間の痛苦に思いを致すということがあるならば、自らの行為が無駄ではなかったと信じることができます。
圧倒的な現実を前に、文学の力は非力ではあっても無力ではないと信じて。
ⒸHiroshi Hayakawa逢坂冬馬(あいさか とうま)
1985年生まれ。明治学院大学国際学部国際学科卒。本書で、第11回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。埼玉県在住。*プロフィールは当時のものです。
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▼選考委員が選ぶ! 2021年の収穫
ベスト30を選んだ選考委員に、キノベス!2022には惜しくもランク外になってしまったものの個人的にはとってもオススメしたい1冊を挙げてもらいました。
キノベス!2022
(2020年12月~2021年11月出版の新刊/第19回)
*推薦コメントの執筆者名に併記されている所属部署は当時のものです。現在は閉店している店舗もあります。