キノベス!2020 第1位『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
ブレイディみかこさん 特別寄稿この本は特別な「わたしたちの本」です
毎年そうであるように、さて、そろそろ「じんぶん大賞」の時期だ、どうなってるのかなあ……と考えていた年末、なぜか今年は「キノベス!」にも入っていて、しかも1位と知らされたときにはブライトンのバスの中でそっくり返りそうになりました(思わず「ファック」と言いました。人は嬉しい衝撃を受けたときにも「ファック」と言ってしまうものです)。
垣根を越えてこっちにも来ちゃいました、みたいな跨ぎっぷりが我ながらいきなり過ぎると思ったので、第一声はFワードになりましたが、ジャンルレスな書き手になりたいと言い続けてきたわたしにとり、これほど名誉なことはありません。
これまでいろんな本を出してきましたが、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、特別な一冊です。と言っても、内容的には、衝撃の新事実があるわけでもないし、社会の暗部を告発するものでも、新たな発見を啓蒙するものでもありません。人が死ぬ話でも、ラブストーリーでもなければ、セックスもドラッグもない(ロックンロールはちょっとあるかもしれません)地味な作品です。
この本が特別なのは、「わたしの本」と言うより、「わたしたちの本」という感じがするところなのだと思います。ゲラの段階から書店員さんたちに励まされ、発売後は全国の売り場で熱く展開していただき、それが読者の方々にも伝わって、読んだ方がまた誰かに伝えてくださる。しかも、宣伝や帯に使われているコピーも実は書店員さんたちにいただいた感想から拝借した言葉です(けっして版元が怠けているわけではありません)。
この本は、「本の売り場」という現場で働く方々と読者の方々に育てていただいた本です。そういう意味では、「グラスルーツ(草の根)」という、わたしがこだわり続けてきた言葉にもっとも近い本なのだと思います。
諦めるのはまだ早い。という気持ちにわたし自身がさせられました。どうもありがとうございました。
ⓒ新潮社写真部ブレイディ・みかこ
保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、96年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争—ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。最新作となる本作で、Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞 特別賞などを受賞している。*プロフィールは当時のものです。
ベスト30を選んだ選考委員に、キノベス!2020には惜しくもランク外になってしまったものの個人的にはとってもオススメしたい1冊を挙げてもらいました。
キノベス!2020
(2018年12月〜2019年11月出版の新刊/第17回)
*推薦コメントの執筆者名に併記されている所属部署は当時のものです。現在は閉店している店舗もあります。