紀伊國屋書店:紀伊國屋じんぶん大賞2022 読者と選ぶ人文書ベスト30

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紀伊國屋じんぶん大賞2022 読者と選ぶ人文書ベスト30

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紀伊國屋じんぶん大賞2022

大賞『東京の生活史』


東京の生活史

岸政彦さん 特別寄稿

 この『東京の生活史』プロジェクトに参加していただいた語り手の皆さま、聞き手の皆さまに、心から感謝したいと思います。40年前から作りたいと願っていた本が、ようやくできました。皆さまのおかげです。

 この分厚い本を最初から最後まで読んでも、「東京」のことは何もわかりません。でも、この本のどのページを開いても、ここには「人びと」が生きているんだな、ということをしみじみと感じます。ここに並んだ150人の人生は、どれもまったく違うものでありながら、みんなどこか似ています。みんな違うということ、そしてみんな似ているということ。正反対のことですが、そんなことを強く感じる本になりました。

 そしてそれはたぶん、この世界の構造そのものであると思います。

 『断片的なものの社会学』以来、2回めのじんぶん大賞になります。このたびの『東京の生活史』の受賞を機に、生活史モノグラフの面白さが広まれば、こんなにうれしいことはありません。ほんとうにありがとうございました。

岸政彦さん


岸政彦(きし まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。立命館大学教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『リリアン』(新潮社、第38回織田作之助賞)など。

 

 このたびは、すばらしい賞をいただき、どうもありがとうございます。編者の岸政彦さん、150人の聞き手さんと150人の語り手さん、みんなでいただいた賞だと思っています。
 岸さんは子どものころから、こうした、たくさんの語りがただ並べられただけの本をつくりたいと思っていたそうです。著者のやりたいことを実現するために伴走するという、編集者の仕事の根幹をあらためて教えてくれる、幸せな一冊でした。
 書店は、言葉の場所です。言葉が壊されていくような日々にあって、それを食い止めるべく書店員の方々は奮闘されています。そのことは、『東京の生活史』の企画を進めるうえで大きな励みになりました。
 最後に、投票いただいた方にも、心からお礼を申し上げます。この本の根底にあるのは、読者の方々や、読者へと本を届けてくださる出版関係者の方々への信頼です。ほんとうに、どうもありがとうございました。

筑摩書房第二編集部
柴山浩紀

◆「紀伊國屋じんぶん大賞」とは?
「読者の皆さまと共に優れた人文書を紹介し、魅力ある『書店空間』を作っていきたい」――との思いから立ち上げた今年で12回目を迎えた紀伊國屋書店の賞です。
 一般読者の方々からいただいたアンケートを元に、出版社、紀伊國屋書店社員による推薦を加味して事務局にて集計し、ベスト30を選定いたしております。本年もたくさんのご応募と推薦コメントをお寄せいただきました。
※2020年12月~2021年11月に刊行された人文書を対象とし、2021年11月1日~11月30日の期間に読者の皆さまからアンケートを募りました。当企画における「人文書」とは、「哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学、批評・評論」のジャンルに該当する書籍(文庫・新書も可)としております。

『キノベス2022・紀伊國屋じんぶん大賞2022 共同小冊子』▶PDF版 ▶Kinoppy電子書籍版

「じんぶん大賞」Twitter公式アカウント(@jinbuntaisho)

じんぶん大賞選考委員が選ぶ! 選外この一冊

*推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は(選)、紀伊國屋書店一般スタッフは所属部署を併記しています。

紀伊國屋じんぶん大賞2022 👑 大賞 👑

推薦コメント
東京という生活空間を、そこに生きる人の語りから書いた快作。あえて全体のストーリーを作らず、読み手が東京という空間を思い描く挑戦的な構成をとっているのが素晴らしい。日本の生活史研究の歴史に確実に残る一冊だと思います。
高橋勅徳さん

売り場で異彩を放つこの本は、東京に縁のある150人が辿った150通りの人生を、1200ページを超える一冊に纏めたものだ。聞き手と語り手の関係性も様々だが、余計な説明やレッテルは一切ない。一つの人生を荒々しく切り取った集合体のようなこの一冊に、並々ならぬ気迫を感じずにはいられない。
(選) 花田葉月

「東京」と題された楽曲はとても多い。それはなぜだろうか。都市としてそこに生活するときに生まれ、流れてくる音楽があるのではないだろうか。一般公募された150名の聞き手による東京の150名の語り手の生活史をまとめた本著。どの話からでもよい。ご一読あれば、そこにはそれぞれの東京が詰まっている。そしてそれぞれの音楽が流れているのだ。東京の暮らしを感じるための楽しいアプローチ。
伊藤稔/名古屋空港店

言わずと知れた「鈍器本」ですが、間違いなく今年の最推しの一冊です。語り手たちの人生を嚙み締め読み進めるうちに、「街」とは形容できない「東京」が立ち現れていく様は圧巻の一言。戯曲を読んでいる気持ちになりました。
(選) 滋野峻也

2位

推薦コメント
ジャーナリストとしての徹底した取材に裏打ちされた膨大な事件や出来事への深く鋭い視点で展開された〝今の時代〟への著者の思いが圧巻。自叙伝がちりばめられていて内容はハードなのに一気に読みました。今まで漠然と思っていたLGBTQ+の活動に対する「何故?」が本当に丁寧に答えられていて目から鱗です。ぜひ読んで欲しい一冊です。
前橋ともさん

私はいかにして私であるか。性別、性的指向、国籍、外見、社会的地位……、これらは果たして、確固たる「私」の要素なのだろうか。誰しもに内在するその不安定さを抱きしめながら、どのように他者と生きていくかをアメリカと日本から探る。自らを構成するアイデンティティが揺らぎ続ける443ページ。
(選) 土井一輝

この本を読んでいかにアメリカが言葉と行動で闘い切り拓いてきたのか、いかに日本はそれらをすっ飛ばしてきてしまったのかを思い知りました。「私」のことを「公」の問題として捉え全力で解決しようとするアメリカの姿勢とパワーの凄さに圧倒されます。著者・北丸氏の経験や想いが沢山織り込まれているのも読み応えがあり、日本がLGBTQ+に対する形だけの「理解」を脱するのはいつになるのか、でも確実に変化は起こっていると希望が持てる本です。
片桐千晶さん

紀伊國屋書店チャンネルでご紹介中!
NEW 【紀伊國屋じんぶん大賞2022 第2位受賞記念】★ 2021年9月開催『愛と差別と友情とLGBTQ+』北丸雄二さんトークイベント の一部を公開いたします!(2022/02/02)>

『愛と差別と友情とLGBTQ+』著者・北丸雄二さんからのメッセージ(2021/11/04)>

3位

推薦コメント
なんといってもこの本の魅力はまさに言葉、文章! 「面白い」文章というのは狙って書けるものではない! 川添さんの文章は笑いをガチで狙いつつ、その潔さがとても気持ちよく、素で笑えてしまうんです。なおかつ世の中に溢れている言葉に対して「あれ?」と思うきっかけをくれる、言語学をちょっと身近に感じることができる私の一押し本です。
永井温子さん

とにかく魅力的なこの文章を、表情ひとつ変えずに読み進めることは、きっと誰もできないでしょう。読む場所は慎重に選ばなければなりませんが(公共交通機関なぞはもっての外!)、読み手は選びません。本書は言語学をより身近に感じることができる、れっきとした人文書だと思います!
(選)林下沙代

電車の中で吹き出してしまったが、構うものか。マスクをしているし、皆スマホに夢中だ。言語学を志せばよかったと悔やむ気持ちと、知らなくて幸せだったのだと安堵する気持ちが交錯する。言語学がなぜ自然科学なのかの回答は、きっと続編で語られるのであろう。
光地竹生さん

4位

推薦コメント
薬物は絶対な悪であるとして、使用者への偏見や誤解の強い日本社会。しかし、その社会の在り方が、薬物依存症患者の孤立を深め、回復や社会復帰を妨げてしまう一因となると知り愕然とした。「心」の治療のためには、安心して「誰か」に依存できる社会の構築が必要であることを深く考えさせられた一冊。
(選) 津畑優子

5位

推薦コメント
中動態と当事者研究というこれまで誰も触れなかった切り口から、「いつもそこにありながら誰も気に掛けなかった」問題群を地上に引っ張り上げた。一度それに気づいてしまうと、既存の問題群も別の光を帯びて見えてくるから不思議。異分野の若き研究者同士の対話プロセスそのものが喜びを与えるという点でも希有な書。
白石正明さん

6位

推薦コメント
いまや個人の夢を意味するアメリカン・ドリームもかつては誰にとっても人生がよりよいものであることを願った言葉であった。共通善にむけて他人の労働への敬意をもつこと、自分の成功も運によるところが多いのだから驕ることなく謙虚でいること。そんな結論にたどりつくまでのサンデル節を楽しむ本。
中山修一さん

7位

推薦コメント
数多の類書があるテーマではあるが、著者自身の来歴によりそれらとは一線を画している。問題の大きさと根の深さを、ノンフィクション的手法で描くことでリーダビリティを高めて読み手の理解を促しているだけでなく、小説のように体温を感じさせる文体で記しているのは、著者の意図を汲み取った訳者の手腕によるところも大きいはずだ。
伊藤弘さん

8位

推薦コメント
国家からではなく民間から世界中へ広がった中国料理。各国に根付いた中国料理にまつわる事実や俗説の真偽を解き明かす。もの凄い情報量に中国料理の偉大さと著者の労力に頭が下がる。「食」「中国」「歴史」が一つでも好きならば一読の価値あり(ただし500ページ超)。どれも大好物な自分は読むことで中国料理を堪能させてもらった。
(選) 生武正基

9位

推薦コメント
「アナキズム」と聞くと、遠い世界のことかと感じてしまいますが、松村先生が書いているのは、私たちのくらしの身近な話です。「わたし」が「くらし」の中で生きていくのに、もしかしたらちょっと暮らしやすくなるかもしれない「アナキズム」というエッセンスを教えてくれる、あたたかい一冊です。
岡田千聖さん

10位

推薦コメント
文学作品の中で描かれてきたはずのケアの価値は、時代的風潮のために、長らく顧みられてこなかった。本書は、そのケアという概念を通して文学作品の再解釈を試み、新たな作品像・作者像を立ち上げることに成功している。社会が複雑化し、多様な価値観が浮き彫りになりつつある今こそ、読まれるべき一冊である。
(選) 田伏也寸志

11位

推薦コメント
堅苦しい本が多い業界ですが、読みやすいタッチで若者が触れやすく、今まであったぼんやりとした困りごとを見直すことができます。また、初心者の助け本かと思いきや、今後のことや自分の考えや立ち位置について考えさせられ、今後の心理業界には必要な本のように思いました。
舟崎玲子さん

12位

推薦コメント
形式論理学とも修辞学とも異なる〈思考表現スタイル〉という独自の論理的次元を確認し、 論理的感性とでもいうべき感覚の在処が学校でのライティング教育にあると指摘する。仏のライティングスタイルの特異さを紹介しつつ、説得的な主張が具えるべき型を暗示してくれる。望ましい合意形成のプロセスにも示唆を与えてくれる一冊。
(選) 井村直道

13位

推薦コメント
独メディア学の泰斗キットラーの主著、没後十年にして待望の邦訳。約800頁の「鈍器本」ながら、二つの世紀転換期を通して、文学や哲学の失われた黄金時代のシステム、現代心理学や視聴覚メディアによる「書く技術」の変容に迫る本書は、人文知からのメディア学の誕生の記念碑として、丹念な訳注とともに読んで時を忘れた。
(選) 野間健司

14位

推薦コメント
1つの仕事にじっくり取り組む、将来のために我慢してがんばる……いまの日本社会でなんとなく「当たり前」になっている価値観や考え方がある。一方で、世界に目を向けてみれば、多様な働き方に出会う。なぜ働くのか、どんなふうに働くのか、それは生き方にもつながっていくことだなあと読んでいて思う。ポッドキャスト版もあり。
粕谷育美/大阪第一営業部

15位

推薦コメント
原書の刊行から50年以上経っての翻訳であるが、時が経つほどかえってその意義はいや増し、コロナ以後の時代にこれ以上なく沿った内容だと感じさせられた。ヒッピーの固定的なイメージを覆し、多様性の認識をより一層深めるために最適な歴史ノンフィクション。
(選) 小山大樹

16位

推薦コメント
臨床心理士としての著者の経験と独特のユーモアから紡ぎだされる物語は、人間模様を鮮明に映し出し、様々な感情に出入りしつつ、美しいあるいは皮肉なオチで楽しませてくれる。そして印象的なエピソードが、著者と登場人物との傷痕とともに深く心に残る。
林愛希生/札幌本店

17位

推薦コメント
探偵小説史上に燦然と輝く傑作にして、市川崑監督、石坂浩二主演の映画も遍く知られる『犬神家の一族』の血で血を洗う凄惨な物語とその醍醐味を、「戸籍」を視座として読み解く怪著にして快著。ミステリとしての魅力とともに、「血」「家」といった近代日本の宿痾もあぶり出されることになるだろう。
(選) 松野享一

18位

推薦コメント
四季を通して、命あるものとの営みをつくる。そして日々の暮らしを、点ではなく線で捉える。持続可能な社会を次世代へ繋ぐためのエコロジカルな実践書。
(選) 池田匡隆

19位

推薦コメント
各種指標から「世界一男女平等な国」と言われ、手厚い社会保障制度もあり、日本では理想郷のように描かれることもあるノルウェーだが、その実態は? 本書で浮き彫りになるのは、家事・育児といった「ケア労働」の多くを女性が担う傾向は不変のまま、ワークフェアの考え方に基づき、フルタイム労働のみを絶対善とするシステムのなかで疲弊する女性たちの姿。制度的な男女平等の先にある「幸せとは何か?」を考える契機となる一冊。
(選) 花田葉月

20位

推薦コメント
どうせ世界は変えられない……そんな暗い気持ちを吹き飛ばしてくれる、かくも多様な抵抗の物語。デモやストライキだけじゃない、生活に密着した抵抗の可能性に、勇気と希望をもらいました。
(選) 髙部知史

21位

推薦コメント
歴史学・民俗学の領域を越えて交わされる数々の言葉。往復書簡という形によって二人の言葉のあいだには時間がおかれており、本という形態を取っていながら、本当に手紙を目にしているかのような感覚がありました。この往復書簡の中には私たちが失っているものが無数に存在し、綴られた言葉がそれ以上の言葉を連れてくる、まさに言葉の力というものを感じられる一冊です。
(選) 東二町順也

22位

推薦コメント
哲学者である著者がこれまでに発表してきた文章を、「災厄と性愛」「闘争と統治」の二冊にまとめて収録。この四つの言葉に集約される諸問題について、読む者を戸惑わせるほどの批判的な論考が並ぶ。読んでも何も安心できないという意味で人を思考に促す。
(選) 藤本浩介

23位

推薦コメント
タイトルだけでしびれる。それぞれの思想がいかに近現代日本に抜き差しならぬ影響を与えてきたかが明らかになる。それにつけても、上原専禄(熱心な日蓮宗徒であるが)の存在は巨大であったと改めて敬服。
(選) 大籔宏一

24位

推薦コメント
30年以上にわたる「いじめ問題」の画期となった「大津市いじめ自殺事件」に、後期クイーン的問題が炸裂する。表題の「囚われ」と副題の「未完」の意味が明らかになったとき、読者の「いじめ観」は一変するに違いない。
(選) 松野享一

25位

推薦コメント
このタイトルと、装丁のドクロマーク、この分厚さ(512ページ)。出会ってしまったら手に取らずにいられない。一時は英国やスペインの海軍の勢力をも凌いだ海賊たちのやんちゃっぷりに惹かれる。
(選) 森永達三

26位

推薦コメント
時間的・心理的な「近さ」だけが、平成という時代の見通しの悪さの要因なのだろうか。55年体制が崩れ、新たな風が吹き込む政治状況。華やかな知識人と昭和の名残。サブカルチャーという地下水脈が社会へと浸潤していく様。それらを分野横断的に語り直すことで、ようやく私たちは昨日の世界と向き合うことができるだろう。
(選) 中島宏樹

27位

推薦コメント
「社会」をどうとらえるか。この根源に「社会科学の『哲学』」として迫っていく、画期的テキスト。学生はもちろんのこと、社会観を鍛えるために広く読まれる価値のある一冊。
(選) 大籔宏一

28位

推薦コメント
無償の愛、自己犠牲といったイメージを彷彿とさせる「母性」という言葉。著者は、旧来のその定義を解体し、圧倒的に管理され暴力的なほどクリーンな都市と労働空間が広がるこの社会において、行き場のない、弱い身体を持つ者の居場所を考える。性別、年齢、子どもの有無にかかわらず、すべての人に読んでもらいたい一冊。
(選) 津畑優子

29位

推薦コメント
読んだ後に、しみじみとタイトルにある「水中」がぴったりなんだなぁと気持ちよく思う。「わからない」人たちが、同じ海で立ち泳ぎしているかんじがユーモラスで、誰もがそれぞれで、大変なこともあるけど、笑っちゃうことも多くて、遠くの誰かではなく、縁した身近な人のことを大切にしたいなと思う作用がある本でした。
アガサ・クリスピー・クリームドーナドナドーナドナさん

30位

推薦コメント
人間の認知には特有のバグが有る。これをイデオロギーの問題にすることで「みんな政治でバカになる」。我々は知識でパッチを当てなければならない。話はそれからだ。この本は我々に議論のスタートラインを新しく引いてくれる。
郡司恵太さん

じんぶん大賞選考委員が選ぶ! 選外この一冊

推薦コメント
「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」といった、妊娠・出産に関わるスピリチュアルなコンテンツとその受容を、批判的かつ内在的な視座から理解し、分析する、社会学のお手本というべき一冊。読みたくなーれ、萌え萌えキュン♡
松野享一/学術和書部

妊娠・出産の場面で胎内記憶や自然なお産などスピリチュアルな言説が巷にあふれる今日の社会。抑圧されてきた女性の自由意志を尊重するフェミニズムはなぜ受け皿になれていないのか。これまで見落とされてきた社会現象に光を当ててくれる1冊。
井村直道/水戸営業所

推薦コメント
マジョリティにとってはいたって普通な感覚・見方・意識からの言動が、実は他者を排除しうるという可能性に行き当たった時、冷や汗が止まらなくなった。多様性を重視する現代社会において必読の一冊。日本社会について言及した訳者あとがきも秀逸。
津畑優子/学術和書部

推薦コメント
哲学はカントが始めヘーゲルが終わらせた? 本人たちの言い分では哲学の始まりと終わりに相当する1781-1806年の思考を追体験する、面白くて本格的な哲学書。下手に入門書を読むより、ドイツ観念論の生成発展のドラマが入ってくる。ゲーテやスピノザによる補助線も、哲学を越える人文的関心に広く訴える読みどころ。
野間健司/学術洋書部

推薦コメント
本作の著者である小野正嗣は、文学作品そのものを擬人化して「生まれた瞬間から誰かを歓待したくてたまらないのです」という。本作では国内外16編の文学作品と著者のあたたかいつながりが描かれており、そのもてなしは、読者である私たちへ開かれることで完成する。
花田葉月/デジタル情報営業部

推薦コメント
『失われた時を求めて』は20世紀文学の傑作と称される。しかし、通読するにはあまりに長く、難解でもある。そう躊躇う読者を、プルースト研究の泰斗が作品世界へ誘う。記憶や時間といったテーマを基調とし、社交界、ユダヤ、同性愛、サドマゾヒズムを作家が描いたのはなぜか。一人称の語り手を選び、比喩を多用する意図とは。『失われた時』という大海へ(再び)漕ぎ出すための、心強い羅針盤。
田伏也寸志/ECサービス部

推薦コメント
コロナ禍で最も目にした言葉「新しい生活様式」と銘打った様々なキャンペーンに対し、著者は戦時中との類似性を指摘します。わたしたちは無意識のうちに「国家総動員体制」を「自発的」に受け入れていた(いる)のだと気づかされる一冊でした。
滋野峻也/静岡営業部

推薦コメント
我々が巡り合う「生のリズム」を主軸として、臨床のナラティブを精緻に分析し、さらには文学や哲学、そしてなによりも歌/音楽より読み取れるものから思考した、「ケア」はどうあるべきかという問いに挑んだ結晶。さまざまな芸術や思想を波のように編み込んだ構成そのものが、本書の鍵概念であるポリリズムを体現しているといっても良いかもしれない。
土井一輝/中部営業部

推薦コメント
哲学的な対話が「子どもでもできる」ではなく「子どもだからできる」のではないか? という逆説的な問いに気付かされます。正解のない困難な課題に向き合う意味・力を、子どもたちから教わりました。
髙部知史/京都営業部

推薦コメント
原発、教育、道元、ウナギイヌ……幅広い分野を精緻な眼差しで捉える稀代の批評家・岡﨑乾二郎による批評選集。さまざまな時期・場所・媒体で紡がれてきた批評文は、図らずも方法論としての芸術を確立しており、それは著者自身が制作者であるからこそ為せる業だと思う。
小山大樹/札幌本店

推薦コメント
近代から現在にいたるまで、あらゆる公共の場に建てられている「彫刻」。彫刻家であり批評家である著者は、それが建てられた社会的背景をつぶさに見ていくことで、現在にも続く様々な問題を浮かび上がらせる。見慣れた風景がこれまでと違ってみえてくる、とても刺激的な一冊です。
林下沙代/札幌本店

推薦コメント
ここ百五十年足らずでこうまで名前の常識が変化していたのは驚きだ。『常識』は疑いにくいとはいえ、ここまで「名」の変遷が知られていないのはなぜなのか。集団で健忘症にかかってしまったようだ。意図して隠されてもいないのになぜか見えていなかったものを明らかにする。新書とはいえ人文書の醍醐味をあじわえる。
生武正基/新宿本店

推薦コメント
世界にはサッカーの試合内容とは別の目的で熱狂するファンがいる。彼らは「ウルトラス」と呼ばれ、国家により時に利用され都合の悪い時には粛清の対象にもされる。本書は単なるサッカードキュメンタリーにとどまらず、スポーツと国家、ナショナリズムについて考えさせられる内容となっている。
東二町順也/新宿本店

推薦コメント
狩る人間と狩られる人間。その両者の隔たりを絶えず創造してきた狩猟権力の歴史は、西洋政治思想史におけるダークサイドと言えるだろう。存在しないはずの差異による、人々を監視し、追跡し、排外するための様々な技術と権力。それらが私達の歴史において決して特異なものではないことは、本書がありありと描き出している。
中島宏樹/横浜店

推薦コメント
ある場所で起きたことが、遠く離れた別の地域に影響を与えるという現象が地球規模に及んだ(=グローバリゼーション)のがこの西暦1000年の時代だった。それは輪作など農業技術の向上によって生産量が増え、余剰生産物の交易が増えたことに起因するが、海図も羅針盤も持たずに広大な海に漕ぎ出した人類の偉業に思いを馳せる一冊。
森永達三/本町店

推薦コメント
聖書を読み抜く、イエスの言葉を考え抜く。この真摯な姿勢に心打たれずにはいられない。
大籔宏一/ゆめタウン徳島店

推薦コメント
人が他者と関わるとき、そこには必ず意外性がある。コロナ禍で注目を浴びる“利他”の概念が様々な分野から論じられた良書だった。
池田匡隆/ゆめタウン下松店

推薦コメント
デヴィッド・ボウイの全キャリアにおける全作品を、歌詞と音楽、ファッションと発言・演奏活動全てを含むものとして詳細に分析。個人と社会、芸術と政治が不可分に絡み合い、多様で複雑な面を見せる作品をそのまま複雑さのうちにとらえつつ、鋭い批評を加えていく圧巻の仕事。
藤本浩介/シンガポール本店

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