『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット』著者
前沢明枝さん 特別寄稿
人形劇団プークの招聘で来日したガネットさん(2018年8月)「エルマーの物語を書いたのは、私ではないの。私の中の子どもが書いたの」と、『エルマーのぼうけん』の作者、ルース・S・ガネットさんは言いました。子どものときの気持ちを思い出して、やってみたかったこと、がまんしていたことを、エルマー少年にやってもらったのだそうです。だからエルマーがリュックにつめたのは、ガネットさんが子どものころに身のまわりにあったものばかり。今でも家の中を探せば手に入るような品物です。これなら読者の子どもたちも、いっしょに冒険に出られそうでわくわくしますね。
7人の娘を育てたガネットさんは、子どもはいつだって親の目の届かないところへ行きたがるものだと言います。それは自立心が芽生えてきている証拠で、上手に見守ってあげるのが大事、と。けれど今は、親の目をくぐってどこかへ行くのが難しい時代になってきました。そんなとき、『エルマーのぼうけん』は、「ひとりでやりたい!」と思う子どものきもちに応えてくれます。親の力を一切借りず、工夫を凝らして困難に立ち向かっていくエルマーは、子どもたちの永遠のあこがれなのではないでしょうか。
家族を大切にするガネットさんは、エルマーとりゅうが冒険を終えて無事に家族のもとに帰るまで、お話を書こうと決めていました。それで『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』へと、物語は続いたのです。読者の子どもたちも、心行くまで冒険を楽しみ、エルマーとりゅうが家族のもとへ帰るのを見届けて、満足して本を閉じることでしょう。エルマーが世界中でロングセラーを続けている秘密は、こんなところにもあるのかもしれません。日本でもすでに3世代にわたる「子どもたち」が、この本を読んできました。今の子どもも昔の子どもも大好きな本。
「特別企画 キノベス!キッズ」の第1位に『エルマーのぼうけん』が選ばれたことは、作者にとっても子どもたちにとっても、たいへん幸せなことだと思います。
前沢明枝 まえざわ あきえ
翻訳家。早稲田大学・津田塾大学講師。ウェスタン・ミシガン大学で英米児童文学、ミシガン大学大学院で言語学を学ぶ。訳書に『野生のロボット』(福音館書店)『ぼくだってとべるんだ』(ひさかたチャイルド)など。
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